第4話

先生は……××でした!?
8,555
2019/06/23 04:09
【自宅マンション】
ゆり香
ゆり香
ただいま、莉のちゃん。

あら、お買い物したの?
莉の香
莉の香
え? ……あ、うん
学校から帰宅した莉の香りのかがまだ夕飯の支度を始める前に、ゆり香が帰宅した。
玄関に置いたままの紙袋を見られてしまい、なんだかばつが悪い。
ゆり香
ゆり香
お洋服かしら。
いつもと違うお店なのね
莉の香
莉の香
う、うん……気分転換
莉の香
莉の香
えっと、私……
今から部屋で試着するから!
* * * * * *

【莉の香の部屋】
莉の香
莉の香
(先生から渡された紙袋……)
莉の香
莉の香
(結局、持って帰って
くるしかなくて)
莉の香は紙袋を勉強机の椅子の上に置いた。
その時、袋の口から漂う何かの香りに気がつく。
気になって覗き込むと、袋の内部、上のほうに小さな封筒があるのが見えた。
莉の香
莉の香
(手紙かな。
……何が書いてあるんだろう)
莉の香は悩んだが、結局、袋の口を結ぶ紐を解いた。そして、封筒を取り出す。
封筒の口は封がされておらず、逆さにするだけで一筆箋が落ちてきた。
莉の香
莉の香
(あ……香りが強くなった)
どうやら一筆箋に、お香が焚きしめられているようだ。
そして、その紙面には。

  『日曜午前11時、御津原みつはら駅の
   ロータリーで待つ』

と記されていたのだった。
* * * * * *

【駅のロータリー】
日曜。
莉の香は結局、指定された御津原駅へと向かった。
御津原の駅前はそれなりに栄えているが、都心へ向かうのと逆方向であるからか、見知った顔は見かけない。
ロータリーで佇んでいると、11時5分前に紫崎しばさきが現れた。
紫崎
紫崎
待たせたか。悪かったな
莉の香
莉の香
……
紫崎
紫崎
どうした
莉の香
莉の香
いえ、なんだか意外で
学校ではネクタイをきっちりと締め、白衣を羽織った姿しか見たことがない。
その紫崎が、浅いVネックのカットソーに綿ジャケットという、カジュアルなファッションをまとっている。
紫崎
紫崎
俺だって休日まで教師を
やってるわけじゃない。
……ラフな格好だってするさ
紫崎
紫崎
それよりお前だ
莉の香
莉の香
え?
紫崎
紫崎
やっぱり似合うな、
思ったとおりだ
莉の香は結局、紫崎に押し付けられた洋服を身につけやってきたのだ。
莉の香
莉の香
……そうですか
紫崎
紫崎
なんだ、不満か?
莉の香
莉の香
いえ……
莉の香はわずかに俯いた。
不満といえば不満なのだが、それは、紫崎の選んだ洋服が思いのほか莉の香に似合っているからだ。
今まで自分で選んでいた洋服以上に、莉の香の凛とした容姿に華を添えている。
紫崎
紫崎
この間みたいに地味な服を
着るから、年上に見られるんだ
紫崎
紫崎
甘い服は似合わないだろうが、
もっと色や形で遊べばいい
莉の香
莉の香
……
紫崎
紫崎
それから……この髪
莉の香
莉の香
かっ髪も駄目なんですか!?
莉の香の髪は母親のゆり香とは違って、スタイルのつけにくい直毛だ。
おまけに真っ黒ときている。
流行のヌケ感のある外国人風スタイルなどにはほど遠く、仕方なくサイドでゆるく編み込んでいる。
紫崎
紫崎
駄目だ。

白沢は美人なんだから、
もっとそれを活かすようにしろ
莉の香
莉の香
え……あっ
紫崎が莉の香に向かって手を伸ばし、髪に指を差し入れた。
莉の香
莉の香
やめてくださいっ
紫崎
紫崎
大丈夫だ、俺を信じろ
莉の香
莉の香
……っ
紫崎が編み込みをほどいてゆく。
なめらかでコシのある莉の香の髪は、あとを残すこともなくするりと解かれてしまった。
紫崎
紫崎
似合うぞ、白沢
紫崎
紫崎
後で、鏡のあるところに
連れて行ってやる
紫崎は、莉の香の解いた髪を何度もくしけずった。
その手つきにも声音にも、自然なやさしさがにじみ出ている。
莉の香
莉の香
先、生……?
紫崎
紫崎
……
突如、紫崎は莉の香の髪を手にしたまま黙り込んでしまった。
なにやら葛藤するかのようにくちびるを引き結んでいる。
莉の香
莉の香
先生?
紫崎
紫崎
……白沢
紫崎が真剣な瞳で、莉の香を見つめてくる。
莉の香は思わず背筋を伸ばし、彼の言葉を待った。
やがて。
紫崎
紫崎
……俺は自分に正直になるぞ
紫崎
紫崎
お前にはもう、お前が
俺の理想だと告げたのだから……、

今更隠すこともないしな
莉の香
莉の香
はい?
紫崎
紫崎
……この、つややかな光沢……
紫崎
紫崎
指の間を抜けてゆく、
すべらかな質感……
紫崎は莉の香の髪を愛おしげに撫でて、どこかうっとりとした面持ちで語る。
紫崎
紫崎
ああ——
紫崎
紫崎
食べてしまいたい……!!!!
莉の香
莉の香
えっ
莉の香が驚いて身を引こうとした、その瞬間。
紫崎は腰をわずかに屈め、手にした莉の香の髪にくちづけた。
莉の香
莉の香
……っ!!
思わず後じさった莉の香の肩に、紫崎の手が伸びる。
そして、そのまま軽く抱き寄せられた。
紫崎
紫崎
いつか、思う存分お前の髪の
匂いを嗅がせてくれ
紫崎が素早く身動きし、今度は耳の上の髪にキスを落とされる。
莉の香
莉の香
〜〜!?!?
莉の香
莉の香
(……せ、先生って……)
莉の香
莉の香
先生……
紫崎
紫崎
ん? どうした白沢
莉の香
莉の香
(先生って、へ……)
莉の香を解放した紫崎は、どこかすがすがしい表情をしている。
だが、人差し指をたてて莉の香のくちびるを塞いだ。
紫崎
紫崎
何を言いたいのかわかるぞ?
紫崎
紫崎
……ああ、そうだ。

俺は
紫崎
紫崎
俺は、黒髪ロングフェチなんだ
莉の香
莉の香
……っ
莉の香
莉の香
……変態……
気勢をそがれた莉の香の小さな告発は、雑踏する街の賑わいに呑み込まれていった。

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