第12話

ほんとの気持ちを教えて
4,302
2019/08/18 04:09
【公園】
紫崎
紫崎
白沢しらさわ

それで、話というのは……
駅から10分ほど歩き、公園へとやってきた。
この辺りまで来ると人出も少なく、喧噪は遠くなる。
莉の香
莉の香
先生、私、
黄瀬きせくんと別れました
紫崎
紫崎
……そうか
莉の香
莉の香
あまり驚かないんですね
紫崎しばさきはわずかに視線を逸らすと、右手をぐっと握りしめた。
紫崎
紫崎
俺のことなら、
告発される覚悟はできて
いるからな
紫崎
紫崎
だが、問題は白沢だ。
俺のせいでこんなことになって
紫崎
紫崎
……本当にすまない
紫崎
紫崎
少しでも白沢に害が
及ばないよう、
できるだけのことはする
紫崎
紫崎
……白沢も、俺のことを
いくらだって悪く言ってくれて
構わないから
紫崎
紫崎
いや、そうしてほしい……
莉の香りのかは黙って紫崎の言葉を聞いていた。
紫崎
紫崎
すまない。本当に……すまない
莉の香
莉の香
やめて、先生
莉の香はてのひらを掲げ、頭を下げようとする紫崎を制した。
莉の香
莉の香
そんなことされたら、
これから返事ができなく
なっちゃいます
紫崎
紫崎
……返事?
莉の香
莉の香
先生、保健室で私に
訊いたじゃないですか
莉の香
莉の香
『お前は俺の気持ちに
応えてくれるのか?』
莉の香
莉の香
って……
紫崎
紫崎
——っ
紫崎がハッと瞳を見開く。
莉の香
莉の香
私、先生のことが
紫崎
紫崎
やめろ、白沢
莉の香
莉の香
私、先生が好きです!
紫崎
紫崎
——……っ
有無を言わさず告げられた莉の香の言葉に、紫崎の瞳が揺れている。
だが、彼は何かを堪えるようにくちびるを引き結んだ。
それから、絞り出すようにして言う。
紫崎
紫崎
……だめだ
紫崎
紫崎
俺とじゃお前は、幸せになれない
いつになく弱気な紫崎の様子に、莉の香は頭にカッと血が上るのを感じた。
莉の香
莉の香
じゃあ、どうして!
紫崎に向かって踏み出し、彼の手をとる。
莉の香
莉の香
どうしてキスなんてしたんですか!?
紫崎
紫崎
……っ
紫崎は痛みを堪えるように表情を歪める。
やがて彼は息をつくと、ようやく本心を語り始めた。
紫崎
紫崎
……どうしても、お前を
手に入れたかった。

ずっと前から白沢に、
惹かれていたんだ
紫崎
紫崎
だが卒業までは見守ろうと、
あえて遠ざけていた
紫崎
紫崎
けれど……お見合いの席で
髪を下ろした白沢を見て
紫崎
紫崎
ブレーキがきかなくなった……
紫崎
紫崎
走り出してしまったからには、
止められない——
紫崎
紫崎
何を犠牲にしてでも白沢を
手に入れよう……、

俺はそう、覚悟を決めた
莉の香は本心を吐露する紫崎の言葉を、ただ黙って聞いていた。
紫崎
紫崎
だけど……保健室で黄瀬が現れて
紫崎
紫崎
俺は結局、お前を……っ
紫崎の言葉が震える。
莉の香は彼を見つめ、問いかけた。
莉の香
莉の香
後悔、してるんですか
紫崎
紫崎
……
紫崎は言葉を返さないが、その表情から莉の香は肯定の意を受け取った。
莉の香
莉の香
……黄瀬くんは
莉の香
莉の香
私たちのこと、黙っていて
くれるそうです
莉の香
莉の香
私と自分はもう、
『付き合った』からって
紫崎
紫崎
……ッ
莉の香
莉の香
だからもう、後悔
しないですみます
紫崎
紫崎
白沢——
ようやく紫崎は、莉の香に目線を合わせてくれた。
初め揺れていた瞳は、やがて莉の香をしっかりと見つめ、そこに熱が灯されてゆく。
紫崎
紫崎
俺はもう、後悔したくない……
莉の香
莉の香
はい
紫崎
紫崎
白沢は
紫崎は腕を伸ばし、莉の香の頬にそっと触れた。
紫崎
紫崎
お前も、後悔しないな?
莉の香
莉の香
……はい、先生
微笑んだ莉の香もまた腕を持ち上げ、自らの頬に触れる紫崎の手にてのひらを重ねる。
紫崎の体が近づいてきて、そのまま莉の香はすっぽりと抱きしめられた。
莉の香
莉の香
かすかな——お香の香り。

……先生の香り……)
莉の香
莉の香
(そして)
莉の香
莉の香
……香子こうこさんの香り、ですね
そう問いかけた莉の香に、紫崎が返した言葉は。
紫崎
紫崎
いや、これはお前の、

——白沢のための香りだ

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