【公園】
駅から10分ほど歩き、公園へとやってきた。
この辺りまで来ると人出も少なく、喧噪は遠くなる。
紫崎はわずかに視線を逸らすと、右手をぐっと握りしめた。
莉の香は黙って紫崎の言葉を聞いていた。
莉の香はてのひらを掲げ、頭を下げようとする紫崎を制した。
紫崎がハッと瞳を見開く。
有無を言わさず告げられた莉の香の言葉に、紫崎の瞳が揺れている。
だが、彼は何かを堪えるようにくちびるを引き結んだ。
それから、絞り出すようにして言う。
いつになく弱気な紫崎の様子に、莉の香は頭にカッと血が上るのを感じた。
紫崎に向かって踏み出し、彼の手をとる。
紫崎は痛みを堪えるように表情を歪める。
やがて彼は息をつくと、ようやく本心を語り始めた。
莉の香は本心を吐露する紫崎の言葉を、ただ黙って聞いていた。
紫崎の言葉が震える。
莉の香は彼を見つめ、問いかけた。
紫崎は言葉を返さないが、その表情から莉の香は肯定の意を受け取った。
ようやく紫崎は、莉の香に目線を合わせてくれた。
初め揺れていた瞳は、やがて莉の香をしっかりと見つめ、そこに熱が灯されてゆく。
紫崎は腕を伸ばし、莉の香の頬にそっと触れた。
微笑んだ莉の香もまた腕を持ち上げ、自らの頬に触れる紫崎の手にてのひらを重ねる。
紫崎の体が近づいてきて、そのまま莉の香はすっぽりと抱きしめられた。
そう問いかけた莉の香に、紫崎が返した言葉は。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。