【公園】
紫崎に抱きしめられながら、莉の香は疑問を口にする。
先日訪れた雑貨屋の店員は、紫崎が香子のためにお香を購入していると言っていたが……。
紫崎に抱きしめられたままの莉の香は、喜びに瞼を震わせた。
そんな莉の香を、紫崎はさらに強く抱きしめる。
莉の香の言葉に、紫崎はふっと息をつく。そして。
腕が緩められ、訝る莉の香は解放された。
そして紫崎の指が、そっと髪に差し入れられる。
紫崎は指に髪束を絡め、持ち上げる。
それから、そのまま口元へと近づけた。
莉の香は頬を赤らめて、わずかに身を引く。
すると紫崎は、口の端を上げてにやりと微笑み、そして。
莉の香は声にならない声を漏らした。
——紫崎のくちびるが、莉の香の髪に触れている。
まるで騎士が淑女の手の甲にキスをするように、
紫崎は莉の香の髪にくちづけていたのだ。
それから莉の香の腕を取り、再び抱き寄せる。
髪を指先で掻き分けられ、耳の近く、根元のあたりにくちびるを寄せられる。
なぜだかぞくぞくとした感覚が体を駆け抜け、莉の香はぎゅっと目を瞑った。
莉の香は必死に懇願する。
——きっと今自分は、顔を真っ赤にしているのだと思う。
紫崎は莉の香の耳元にくちびるを寄せたまま、吐息にのせてささやく。
莉の香は大きく肩を震わせる。すると紫崎は、喉の奥でクッと笑った。
そののち、ようやく莉の香の腕を放してくれる。
莉の香が抗議すると、彼は。
にやりと笑って、紫崎はうそぶいた。
莉の香は涙目になってさらに抗議するが、紫崎は意に介さない。
ついにそう罵ってしまう。
……けれど。
紫崎は意に介さないどころか、自慢げに宣言した。
紫崎は瞳を意地悪く細め、だけど嬉しげに微笑んで。
紫崎がからかいを込めて莉の香を見つめてくる。
莉の香は眉根を寄せて紫崎を見上げた。
胸に込み上げる、熱い想いがある。
その名を呼ぶだけで、溢れてしまう感情がある。
まだ頬を熱くしたまま、莉の香はそっと紫崎に告げる。
すると紫崎は、満足そうに微笑んだ。
【おわり】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!