【保健室】
乱暴にベッドを仕切るカーテンを紫崎に開けられ、莉の香が包まる布団に手がかかった。
莉の香は躊躇したのち、おずおずと布団から顔を出す。
紫崎の前髪がわずかにほつれている。
莉の香と同じように、彼の心も乱されているのだろうか?
紫崎が、右手を伸ばして莉の香の頬に触れる。
そのてのひらの温かさに、莉の香はほろりと涙を零した。
莉の香は僅かに息を呑む。
莉の香はふたたび、瞳に涙が盛り上がるのを感じた。
紫崎は、頬に触れた手を莉の香のおとがいへと移動させる。
莉の香はすがるように紫崎を見つめた。
その視線を受けた紫崎の瞳に、激しい感情が宿る。
彼は左手で莉の香の肩を抱き寄せ、身を屈め——
強引に、くちづけられた。
そのまま何度か、角度を変えてキスをされる。
その激しさが、紫崎の本心をなにより物語っている……、そんな気がした。
くちびるを話した紫崎が、至近距離で莉の香に告げる。
莉の香は潤んだ瞳で紫崎を見つめ、そして。
こくりと頷いた。
紫崎はそんな莉の香を真剣な瞳で見つめ、それから微笑んで言った。
莉の香を心配して駆けつけた紫崎の表情が。
心乱れるままに交わしたキスが。
——今、やさしく微笑んでくれる瞳が。
紫崎の本心を、余すところなく伝えていた。
紫崎は驚いた後、ほっと息をつきながら言った。
近い距離で見つめ合う。
微かに甘いお香の香りが、ふわりと漂った。
莉の香が気持ちを告げようとした、そのときだった。
ばたばたとけたたましい足音が近づいてきて、保健室の扉が乱暴に引かれる。
室内に飛び込んできたのは、黄瀬だった。
ベッドを隠すためのカーテンは、紫崎が開け放ったままだ。
紫崎は莉の香の肩にかけた手に力を込め、さらに莉の香を引き寄せた。
ベッドの足元までやってきた黄瀬が、紫崎を睨み付ける。
莉の香は肩を震わせた。
肩を抱く紫崎の手から、緊張が伝わってくる。
黄瀬は面白くないものをみた、とでもいうように吐き捨てる。
ついに黄瀬が吠えた。
莉の香はベッドから身を乗り出す勢いで、黄瀬に向かって懇願する。
黄瀬は紫崎を激しい瞳で睨み付けたのち、莉の香に視線を合わせた。
黄瀬はポケットからスマホを取り出すと、すばやく莉の香と紫崎に向け、身を寄せ合うふたりを写真に収めてしまう。
そして。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。