カラン,カラン…
今日も心地のいい音が鳴り響く
私は一番奥の席に座った
ここを、これからの定位置にしよう
これが、知る人ぞ知る、安室透の営業スマイルである
私は安室さんの背中をじっと見つめた
ふと、彼の背のたくましさに、違和感を覚えた
声に出てしまった
慌てて店内を見渡す
店の中には、私と安室さんと、梓さんは買い出し中だった
固まってしまった
言葉を返せなくて、黙っていると
安室さんは穏やかに笑った
なぜか、その笑みにでさえ偽善を感じてしまう
職業柄、人の性格や気持ちを書き表すことはあるが、読み取るなんてことはてんでない
これ以上はどうにもならないと悟って、私は話を切り替えた
なんとなく目を逸らして、もう一度安室さんを見る
彼の眼差しには、同情のような、嫌悪のような、複雑な感情が見えた
気まずい空気を断ち切るような安室さんの話でさえ、鬱陶しく感じてしまう
一度こうなると、自分でも止められないくらいに鬱に走ってしまうことがある
申し訳ないという気持ちを抑えて、私は片付けを急いだ
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なるべく後ろを振り向かないようにして、早足で駅へと向かった
安室さんの最後の言葉がいつまでもこだまする
安室さんのあの眼差しを思い出し、ふと鳥肌が立つ
見下すというか、同族嫌悪というか、そんな感情だったかなと思った
私は足を止めた
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家に帰って夕食を食べて、シャワーを浴びてパソコンに向かう
「窓から夕日が覗いた。まるで僕たちを見守るかのように、太陽は廊下や僕ら全体を照らす。
『君はさ、一体何がしたいわけ?』
『そんなの、私にだって分からないわ。』
僕は手を伸ばした。彼女の頬に触れる少し手前で手を止め、」
私はそこで、打ち込むのをやめた
今日のことがどうしても気になって、文章が全然浮かんでこないのだ
そう言って下を向くと、なぜか涙が溢れてきた
誰かに嫌われることが怖くて泣くのは、これが初めてだった
そもそも最後に泣いたのはいつだったか、そんな考え出したらきりがないことにまで思考を巡らしてしまう
私はパソコンの電源を切って、電気も消して、ふらふらしながら布団に潜った
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降谷は、これほどないと言わんばかりの焦りを隠さずに立ち上がる
二人は時計を見る
短い針4は、長い針は10を指していた
静かな朝日が、警視庁を照らした
だがしかし、その朝日の静けさに反して、東京都内は不穏な空気に包まれつつあった
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。