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第2話

2,103
2018/07/21 09:40
カラン,カラン…
今日も心地のいい音が鳴り響く
安室透
いらっしゃいませ
あ、この間の…
あなた

はい
先日はありがとうございました
お陰様で残るは終章のみです…

安室透
それは良かった
空いているお席へどうぞ
私は一番奥の席に座った
ここを、これからの定位置にしよう
あなた

あの、レモンティーをお願いします…

安室透
かしこまりました
これが、知る人ぞ知る、安室透の営業スマイルである
私は安室さんの背中をじっと見つめた
ふと、彼の背のたくましさに、違和感を覚えた
あなた

(ここでアルバイトしてるだけだったような気がするけど…男の人はみんなそうなのかな…?)

あなた

何かを、守ってるような…?

声に出てしまった
慌てて店内を見渡す
店の中には、私と安室さんと、梓さんは買い出し中だった
あなた

(良かった…誰もいない…)

安室透
あながち、間違いでもないですよ
あなた

え…?

固まってしまった
言葉を返せなくて、黙っていると
安室透
ふふ、冗談ですよ
安室さんは穏やかに笑った
なぜか、その笑みにでさえ偽善を感じてしまう
安室透
まあ、強いて言うならこのポアロとか
あなた

は、はぁ…

職業柄、人の性格や気持ちを書き表すことはあるが、読み取るなんてことはてんでない
これ以上はどうにもならないと悟って、私は話を切り替えた
あなた

安室さんは、料理がお上手ですよね
何か、得意なものとかあるんですか?

安室透
うーん…
よく訊かれるんですけど、特には…
すみません…
あなた

いいえ
きっと何でも出来るってことなんでしょうね
安室さんは凄いです

安室透
そんなことないです
あなた

ありますよ
他より優れていることがあるってちょっと羨ましいです

なんとなく目を逸らして、もう一度安室さんを見る
彼の眼差しには、同情のような、嫌悪のような、複雑な感情が見えた
安室透
…今日は、なんだか暑いですね
何かお作りしましょうか?
気まずい空気を断ち切るような安室さんの話でさえ、鬱陶しく感じてしまう
一度こうなると、自分でも止められないくらいに鬱に走ってしまうことがある
申し訳ないという気持ちを抑えて、私は片付けを急いだ
あなた

いえ、もう帰ります
用事を思い出しました

安室透
そうですか…
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なるべく後ろを振り向かないようにして、早足で駅へと向かった
安室さんの最後の言葉がいつまでもこだまする
あなた

(後でちゃんと謝らないと…)

安室さんのあの眼差しを思い出し、ふと鳥肌が立つ
見下すというか、同族嫌悪というか、そんな感情だったかなと思った
あなた

(安室さんって、本当にポアロでしか働いてないのかな…もっと、なんかこう、危ない?仕事をしてるような気もするけど…)

私は足を止めた
あなた

(それとも、過去に何かあった人なのかな…?明日ちょっとだけ訊いてみよ…)

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家に帰って夕食を食べて、シャワーを浴びてパソコンに向かう
「窓から夕日が覗いた。まるで僕たちを見守るかのように、太陽は廊下や僕ら全体を照らす。
『君はさ、一体何がしたいわけ?』
『そんなの、私にだって分からないわ。』
僕は手を伸ばした。彼女の頬に触れる少し手前で手を止め、」
私はそこで、打ち込むのをやめた
今日のことがどうしても気になって、文章が全然浮かんでこないのだ
あなた

はぁ~…もうムリだ…
絶対嫌われたもん…!!

そう言って下を向くと、なぜか涙が溢れてきた
あなた

あれ、グスッ…何でっ、何でだろ…ズッ

誰かに嫌われることが怖くて泣くのは、これが初めてだった
そもそも最後に泣いたのはいつだったか、そんな考え出したらきりがないことにまで思考を巡らしてしまう
あなた

(あぁ、こりゃダメだ
明日、本当に、ちゃんと、安室さんに謝らなきゃ…)

私はパソコンの電源を切って、電気も消して、ふらふらしながら布団に潜った
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風見 裕也
降谷さん!
降谷零
どうした、風見
風見 裕也
明日の作家会のことなんですが、今、テロ予告があったそうです…
降谷は、これほどないと言わんばかりの焦りを隠さずに立ち上がる
降谷零
まずいぞ…
予告時間は!?
風見 裕也
″狭いところに一番多く人が集まる時″とだけ…
降谷零
くそっ…
二人は時計を見る
短い針4は、長い針は10を指していた
降谷零
急ぐぞ風見!!
風見 裕也
は、はい!
静かな朝日が、警視庁を照らした
だがしかし、その朝日の静けさに反して、東京都内は不穏な空気に包まれつつあった