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2021/11/20

第46話

もう少しだけ

「あの、スマホを忘れてたみたいで、取りに来たんですけど…」
「あぁ、碓氷さん!」

何度も来るうちに受け付けの人にも名前を覚えられた。
あの人はとても人当たりの良い人で、私にいつも笑顔であいさつをしてくれる。
柊のことも知っている。

「碓氷さんのスマホ、こちらですね?」
「そうです、あの、どうも。」

それだけ言って、すぐに入口の方へ体の向きを変えた。
そのとき、あぁぁの、ちょ、ちょっと待ってください!と慌てたように呼び止められた。

「あの、榊原さんのこと、すごく…」
「あの、気を遣わないでください。大丈夫ですから」
「すみません。あの、実は私、榊原さんからお預かりしていた物がありまして。」
「預かり?」
「"もしも自分に何かあったらこれだけは、渡して欲しい"と。」

そう言って差し出されたのは1つの封筒だった。


グレーとくすんだグリーンを混ぜたような色の、無地の封筒。


宛名もない。


封筒これを預けたのは、本当に柊らしい。
震える手、震える声を必死に隠しながら、お礼を言って、予定には無かった河川敷へ向かった。
ほとんど無意識だ。
今はまだ涙目で我慢しているが、これを見たらいよいよ制御できずに号泣してしまうだろうことを、そしてそうなればたくさんの人がいる場所には居られないことを本能的に理解したんだと、私は思う。
こんなものを残して、"これを読んでるってことは、俺はもうこの世にはいないってことなんだな。"なんて定型文を書いていたとしたら、彼はもう本当に本の読みすぎだ。


こんなときに、そんな馬鹿げたことを考えてしまう。
中を開けて見なくても、彼が残したものが今ここにあるという事実があるだけで、体の奥から何かが込み上げてくる。
空は私とは真反対に、よく晴れていた。
昼下がりの太陽が少し明るずきた。
河川敷へ到着すると、私はまずスマホを見た。
柊が残した手紙は1番に見たいものではなかった。
ただただ、自分が苦しくなるだけだから。
このやみなとからの連絡があるのを見ると、少しだけ気持ちが軽くなる。
何度も深呼吸をして、ゆっくりと封筒を開けた。


  ♤  ♤  ♤