今日は憂鬱な新入生宿泊研修一日目。
今はバスに乗って宿泊先のホテルに向かっているところだ。
委員長はにこやかな笑みを浮かべ、さらっと不正を働いたことを認めた。
窓側の席にいる委員長を睨みながら話していると、通路側から肩を叩かれる。
通路を挟んだ隣の席には副委員長が座っている。
本当になぜだかわからないけど、人気者2人に好かれてしまったようだ。
彼女は俯くと、指で涙を拭うような仕草を見せる。
彼女は勢いよく顔を上げ、期待に満ちた表情で私を見つめてくる。
その目にも頬にも濡れた跡はない。
東雲さんは手で口を覆い、とても嬉しそうに笑ってくれる。
私はそこでやっと、自分から距離を縮めてしまったことに気づいた。
その笑顔にまた感嘆の声を漏らしていた東雲さんは、話しかけてきた隣の男子の方へ向きを変えた。
私はその隙を見て、小さな声で委員長に話しかける。
急に委員長の雰囲気が変わった気がした。
いつもの笑顔はなく、彼は真剣な面持ちで私をじっと見つめる。
こんなことを言われたのは初めてで、私は少し心が揺れた。
けど、口だけならなんとでも言えるから、まだ信用したらいけない。
中学の頃は誰にも相談しなかった。
周りの友達を信用できなくて投げやりになっていたし、聞く耳を持たない相手に対して解決策なんてないだろう。そう1人で考えて諦めた。
まだ委員長を信用はできないけど、本当に見捨てず助けようとしてくれるなら心強い。
けど、怖がりな私は、まだ一歩を踏み出す勇気がない。
今の関係なら、まだもう少しだけ続けてもいいかもしれない。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!