放課後、仲良しの女の子たちがそんな話をしていて、私は教室の外で立ちすくんでいた。
次の日からその子達に無視をされ、いじめられるようになってしまった。
仲良しだと思っていただけに、それはとても衝撃的で、悲しさと苛立ちで心がぐちゃぐちゃにかき乱された。
そんな中学生活を抜け出し、高校に入学して2週間が経つ。
私はもう友達が欲しいなんて思えず、極力クラスメイトとの会話を避けている。
そうしていたら自然と人は離れていった。あるとしたら、今のような事務的な会話だけ。
他人との距離感なんてこれくらいが丁度いいのかもしれない。
今日も1日、憂鬱でつまらないけど平穏な時間をなんとなく過ごすんだろう……、そう思っていたのに。
爽やかな笑顔を浮かべて話しかけてきたのは委員長の江川弘桜だった。
入学してまだそれほど経っていないのに、彼は「爽やか笑顔のイケメン委員長」とクラス内で人気が高い。話したくない男子No.1 だ。
誰にでも分け隔てなく接する良い人のようで、無視をするのは気が引けてしまう。だからと言って仲良くはなりたくない。私はただ質問に答えて、委員長が飽きてくれるのを待っていた。
けど、話の広がらない答えや薄い反応を返しても、委員長は笑顔を崩さない。楽しい要素なんてないと思うけど、それでも彼はまた次の質問を考えている。
あまりにも予想外な答えに、私は思わず声を上げてしまった。
それに驚いたクラスメイト達の視線が刺さるが、私はそのまま委員長を睨み付ける。
そう言って委員長が指したのは私の筆箱だった。
キーホルダーを1つ付けているだけの青いシンプルな筆箱。
委員長は綺麗な笑顔を浮かべている。けど、私にはそれがからかって楽しんでいるようにも見えた。
そう言ってやりたかったけど、さっきのこともあってクラスメイト達の視線はすでに私達に集まっている。
どう思われようと構わないけど、注目を浴びるのは避けたい。
私は言葉を飲み込んで静かに席から立ち上がった。
しかし、委員長が私の腕を掴んで離れることを許さない。
委員長は掴んでいた私の腕を離すと、素早く手を取り握手をした。
私は彼の手を振り解いて、目をじっと見つめる。
そう言って、私は一度落ち着くために教室を出る。
私はため息を漏らして、用もないお手洗いへと向かった。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。