第5話

私はそんなに素敵な人じゃない
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2021/10/27 04:00
東雲 沙月
東雲 沙月
……私、お父さんの仕事の関係で引っ越してきてね。共学は初めてなの。だから、男の子とも仲良くなれるように頑張ったつもりだったんだけど、……なにか間違えちゃったみたいで
柴野 由菜
柴野 由菜
それで、女子に嫌われてるんだ
東雲 沙月
東雲 沙月
やっぱり、わかる?
江川 弘桜
江川 弘桜
まぁ、女子の態度が露骨だからね
東雲 沙月
東雲 沙月
一緒にいる時に嫌な思いをさせちゃってたら、ごめんね
柴野 由菜
柴野 由菜
東雲しののめさんの行動を不快に感じたことはないよ
江川 弘桜
江川 弘桜
うん、東雲さんは気遣いもできるいい子だと思う。ただ、慣れない環境で女子の気に障ることはしちゃったんだろうね
東雲 沙月
東雲 沙月
そうだね。少し浮かれてたのかも
柴野 由菜
柴野 由菜
……そんな奴ら気にしなくていい


 元気づける言葉も思いつかず、ありきたりな言葉を言っただけなのに、東雲さんはとても嬉しそうに微笑みかけてくれる。

東雲 沙月
東雲 沙月
ありがとう。由菜ゆなちゃんは、周りに左右されないよね。そういう所すごく尊敬してるの
東雲 沙月
東雲 沙月
私のことをどうとも思ってなさそうな子でもね、周りの空気を読んで無視したりするの。けど、由菜ちゃんは誰に対しても変わらず同じでしょう?
東雲 沙月
東雲 沙月
困ってる人がいたら、それが私でも手を差し伸べてくれる優しさがある。本当に尊敬してるの
柴野 由菜
柴野 由菜
待って、違う


 東雲さんが語る私はとても素敵な人に聞こえる。けど、それは私ではない。

 無愛想とか、協調性がないとか。周りからどんな風に見られたって構わないと思っていた。

 けど、そんな誤解をされるのは、罪悪感を感じてしまう。

柴野 由菜
柴野 由菜
……私中学の時に、仲の良かった女子にいじめられたんだ。「男子にこびを売ってる」って言われて
柴野 由菜
柴野 由菜
話も聞いてくれないし、一方的に感情をぶつけられるだけ。……それなら仲良くなんてならなければ良かった
柴野 由菜
柴野 由菜
だから、もう友達なんていらないって思って、そういう風に動いてただけ。私は、ただ怖がりなだけだよ
東雲 沙月
東雲 沙月
けど、2度も私を助けてくれたじゃない
柴野 由菜
柴野 由菜
ただの気まぐれと、東雲さんに昔の自分を重ねていたからだよ。ごめんなさい
江川 弘桜
江川 弘桜
友達なんていらないっていうのは極論だから、そこについては考え直してみてほしいけど。そういう経験をしたから、柴野さんは周りから悪い影響は受けない強さを持てたんじゃない?
東雲 沙月
東雲 沙月
それに由菜ちゃんが優しいことに変わりはないよ
柴野 由菜
柴野 由菜
……違うのに。ていうか、私のことはいいや。それより東雲さんの話
江川 弘桜
江川 弘桜
まぁ、今回のことは普通に本人達に注意するし、先生にも言うよ。
報連相が欠けてるから叩ける点がたくさんあるなー


 爽やかと言っていいのか、委員長は活き活きとした笑みを浮かべている。

 けど、それに反して東雲さんの顔色は悪くなり慌て始めた。

東雲 沙月
東雲 沙月
ま、まって! 私わかってて探してたし、集合時間には戻ろうと思ってたから! だから、何も言わないで大丈夫だよ
柴野 由菜
柴野 由菜
なんで? 東雲さんを置いて何も言わずにゴールしてるんだよ
東雲 沙月
東雲 沙月
連絡先交換してなかったから、知らせられなかったんだよ!
江川 弘桜
江川 弘桜
それなら、見つかった時点でここまで戻ってきて、東雲さんと合流するべきでしょ
東雲 沙月
東雲 沙月
どこを探すか言ってなかったし……


 東雲さんは俯いて草いじりを始めてしまう。

 彼女のそれは、私の諦めとは違う気がする。

柴野 由菜
柴野 由菜
(問題にするのを避けてる?)
江川 弘桜
江川 弘桜
けど、放置してたらまた同じようなことが起きるかもしれないよ
東雲 沙月
東雲 沙月
……それでも、大事にはしたくないの。私、……ずるいから


 心細そうな表情をする東雲さんを見ているのはとても辛くて、なにか力になりたいという気持ちが私の中で大きくなっていた。

柴野 由菜
柴野 由菜
……わかった。じゃあ、沙月が辛いときは私と江川がそばにいるよ。いいよね?
江川 弘桜
江川 弘桜
もちろん。それはいいけど、いつかは解決しないとね
東雲 沙月
東雲 沙月
……ありがとう、由菜ちゃん、弘桜くん


 人と関わるのなんてもう嫌だと思ってたけど、昔の自分と同じ目にあっている彼女を支えてあげたい。

 何ができるかわからないけど、きっと、そばにいてくれる人がいるだけで違うはずだ。

 私もあの頃、誰かに話を聞いてもらいたかったから。




江川 弘桜
江川 弘桜
よし! じゃあ、もうすぐ時間だし帰ろうか
東雲 沙月
東雲 沙月
そうだね
柴野 由菜
柴野 由菜
おなかすいたー


 私達は寄り道をしながら時間ギリギリに集合場所に戻った。

 結局、連絡しなかった事を怒られたのは私達になってしまったけど、それでもあまり悪い気はしない。


 その分、沙月と話し合えたし、江川も助けてくれるとわかった。

 「もしかしたら」そう考えるとまだ少し怖いけど、久しぶりに他人と仲良くしてみよう。







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