帰りのSHRが終わり、私は昇降口が空くのを教室で待っていた。
委員長は大量のプリントを持って教室に入ってくると、それを机に置いて私を拝むように両手を合わせる。
けど、私はそれが素直に信用できなかった。これも何か企みのうちなのか、と勘ぐってしまう。
そう言って深く頭を下げたのは、副委員長の東雲沙月だった。
東雲さんは可愛い大きな目を見開くと、幸せそうに顔を綻ばせる。
委員長は私にプリントの束を託して忙しそうに教室を出ていった。
渡されたプリントに視線を下すと、そこには1枚の付箋が張られていた。
「仲良くなるチャンスだと思ったんだ。すぐ戻ってくるから帰らないでね」と書かれている。
私は慌てて付箋を取り外し、丸めてポケットにしまう。
説明を受けた後は2人で黙々と作業を進めていった。たまに視線が合うと、副委員長は嬉しそうに微笑みかけてくる。
清楚で謙虚な彼女は、委員長と同じくクラスの人気者だ。男子ともよく話していて、接しやすいという評判をよく耳にする。
だからと言って、今更見て見ぬ振りもできない。
考えないようにして地道な作業を続けていると、残りのプリントを持って委員長が帰ってきた。
2人も活気づいて作業を再開すると、教室のドアが開いて男子1人と女子3人が入ってきた。
副委員長がそう言うと、さっきまで元気いっぱいだった女子達が一瞬黙り込んだ。
男子がふざけたおかげでまた場は明るくなったけど、副委員長が喋っただけで女子のテンションは少し下がった気がする。
委員長は周りの机を合わせて作業場所を拡大し、私の隣に椅子を持ってきて座った。
爽やかな笑顔が今日も輝いている。
そして、それを見て顔がにやけている女子が3名。
副委員長は悲しそうに笑って俯き、手を止めずに作業をこなしていた。
さっきの女子達の反応のことだろうか?
あれは明らかにおかしかった。こんなこと想像に過ぎないけど、彼女は中学の頃の私みたいに、いじめられているのかもしれない。少しそう思った。
私の目から見て、副委員長は責任感があってしっかりしているし、気配りもできるように感じる。学校行事で使う大量のプリントを失くすというのは、少し違和感を感じていた。
私は咄嗟に委員長の足を軽く踏みつけ、余計なことを言わないよう睨み付けた。
さらに睨みをきかせても、彼は満足気な笑みを向けてくる。
更に人が増えていき、陽が沈み切る前にしおりは37人分完成した。
クラスメイト達はそれぞれ帰っていき、私と委員長、副委員長で後片付けを終わらせた。
何も言わずに昇降口の方へと歩きはじめると、委員長は横に並んでニコニコと笑っていた。
私は歩幅を大きくして、彼の顔を見ないようにした。
あとで傷つくのはもう怖い。
だから、誰とも仲良くなんてなりたくないんだ。
「楽しい」がなくてもあの時よりは悲しくないから、私は今のままでいい。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。