第4話

スタンプラリーハイキング
2,567
2021/10/20 04:00
先生
はーい!じゃあ、スタンプラリーハイキングの説明をするからみんな静かにねー!!
先生
各クラス、各班ごとにルートが5種類の中からランダムになってます! 5つのチェックポイントで先生達からスタンプをもらってくださいね!
先生
なにか緊急きんきゅうの時は、しおりに書かれている番号にすぐ電話すること!
先生
各々出発準備ができたらスタートしてねー!


 宿泊研修の最初のイベント「スタンプラリーハイキング」が始まった。

 新入生の交流を深めるための行事だと思うけど、私からしたら大きなお世話だ。

 そんなもの個々でやればいいだろうに、なぜ学校行事としてやるのか。

柴野 由菜
柴野 由菜
(考えるだけ無駄か)
女子1
ほら、柴野しばのさんボーッとしてないでいくよ!
柴野 由菜
柴野 由菜
男子1
なぁ、スタンプってこのしおりに押してもらうんだよな?
女子2
そうそう。全部集めたらみんなに景品あるんだってー
男子2
どうせボールペンとかだろ? やる気でねー
女子1
いいから! ほら、こっから山道だよ


 私は後ろから付いていき、みんなが話しているのを眺めて歩いた。

柴野 由菜
柴野 由菜
(あー、帰りたい)
女子1
ねぇ、1つ目のチェックポイントここなんだけど、先生いなくない?
男子1
隠れてるって言ってたしなぁ。どこだー?


 東屋のある休憩所のような広場には、すでに私達以外の班もたどり着いていた。

 見通しのいい場所だけど、先生の姿は見当たらない。

柴野 由菜
柴野 由菜
(ベンチにでも座って待ってようかな)


 サボる気満々で東屋に近寄ると、塀と草むらの間に人の頭のようなものが見える。

……見つけた
女子2
え!? どこどこ?
柴野 由菜
柴野 由菜
この塀の裏
男子1
すげぇ! 柴野さん、よく見つけたなー
先生
他の先生たちはもっと見つけにくいから頑張れよー


 そこから先3箇所のチェックポイントで、私はサボろうとする度に先生を見つけてしまう。

女子1
柴野さん大活躍じゃん!! 周りよく見てるんだね!
柴野 由菜
柴野 由菜
うーん、……まぁ(サボりたかっただけなんだよなぁ)
男子2
最後も頼むぜー! 柴野!
柴野 由菜
柴野 由菜


 最後くらい適当に探してさっさと終わらせよう。そんなふうに考えていたら、道から外れた草むらに人影を見つけた。

柴野 由菜
柴野 由菜
……東雲しののめさん?
男子1
え、どこどこ?


 私が指した方向には、下を向いてしゃがんでいる東雲さんがいた。

 彼女は手で草をかき分けて何かを探しているようだった。

男子2
沙月ちゃーん! なにしてんのー?
東雲 沙月
東雲 沙月
……あぁ、しおりを失くしちゃって、探してるのー!
女子1
はぁ、ホント東雲さんってどんくさいよね。もういいから行こうよ! 最後のチェックポイントすぐそこだよ
柴野 由菜
柴野 由菜
残る。先行ってて
男子2
え、じゃあ俺もーー
柴野 由菜
柴野 由菜
道の途中探して。見つけたら教えて
男子2
え、あー、わかった


 私は道から外れて東雲さんの下まで駆け寄った。

柴野 由菜
柴野 由菜
東雲さん
東雲 沙月
東雲 沙月
わっ!? 由菜ゆなちゃん! 私1人で大丈夫だよ!
柴野 由菜
柴野 由菜
2人のが早い。この辺でなくしたの?
東雲 沙月
東雲 沙月
……あー、それがわからなくて。同じ班の子のしおりでね。手分けして探してるところなの
柴野 由菜
柴野 由菜
ふーん(同じ班の子……ねぇ)


 探しているのが他人のものとわかり、本当になくしたのか疑わしくなった。またいじめではないかと思ったけど、東雲さんは手を止めずに探している。

 健気な東雲さんのために探そう。そう思い、草をかき分けながらあたりを見渡す。

東雲 沙月
東雲 沙月
本当に大丈夫だよ! 由菜ちゃんは先に行ってて!
柴野 由菜
柴野 由菜
ちょうど班行動疲れてたし、こっちのが気が楽
東雲 沙月
東雲 沙月
ふふっ、本当に由菜ちゃんは……。お人好しってよく言われるでしょう?
柴野 由菜
柴野 由菜
初めて言われた。東雲さんの方がそうでしょ
東雲 沙月
東雲 沙月
そんなことないよ。……あのね、これ多分からかわれてるだけなの
柴野 由菜
柴野 由菜
え?
東雲 沙月
東雲 沙月
……他の子に渡して隠してるのを見ちゃってね。だから、本当は探す必要ないの
柴野 由菜
柴野 由菜
じゃあ、なんで探してるの?
東雲 沙月
東雲 沙月
気が楽だから。……私、本当はずるいんだ


 東雲さんは頑張って笑っているようだった。

 なんて声をかければいいだろう。言葉が思いつかず黙り込んでいると、委員長の声が聞こえてくる。

江川 弘桜
江川 弘桜
2人共ー! ここにいたんだ
東雲 沙月
東雲 沙月
江川えがわくん、どうしたの?
江川 弘桜
江川 弘桜
みんな迷ってないか見回り中だったんだけど……。さっき柴野さんの班の人から話聞いてね
江川 弘桜
江川 弘桜
……もう東雲さんの班ゴールしてるんだ。だから、しおりは多分見つかったよ
柴野 由菜
柴野 由菜
まぁ、なくしてないからな
江川 弘桜
江川 弘桜
え? もしかして知ってた?
東雲 沙月
東雲 沙月
……隠してるとこ見ちゃって
江川 弘桜
江川 弘桜
あー、そっか。なるほどね


 東雲さんがいじめを受けていることを、委員長も前から勘付いていたように思う。

 私と同じく、言葉選びに悩んでいるように見える。



 自分が同じ状況だったときのことを思い出しても、なんて声をかければ正解なのかわからない。

 感じ方、捉え方は人それぞれだ。
 自分が傷つきたくないのと同様に、人を傷つけたくもない。

 人と関わることを諦めた私には、こんなに大切な時に、言葉を伝える勇気すら足りないんだ。







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