宿泊研修の最初のイベント「スタンプラリーハイキング」が始まった。
新入生の交流を深めるための行事だと思うけど、私からしたら大きなお世話だ。
そんなもの個々でやればいいだろうに、なぜ学校行事としてやるのか。
私は後ろから付いていき、みんなが話しているのを眺めて歩いた。
東屋のある休憩所のような広場には、すでに私達以外の班もたどり着いていた。
見通しのいい場所だけど、先生の姿は見当たらない。
サボる気満々で東屋に近寄ると、塀と草むらの間に人の頭のようなものが見える。
……見つけた
そこから先3箇所のチェックポイントで、私はサボろうとする度に先生を見つけてしまう。
最後くらい適当に探してさっさと終わらせよう。そんなふうに考えていたら、道から外れた草むらに人影を見つけた。
私が指した方向には、下を向いてしゃがんでいる東雲さんがいた。
彼女は手で草をかき分けて何かを探しているようだった。
私は道から外れて東雲さんの下まで駆け寄った。
探しているのが他人のものとわかり、本当になくしたのか疑わしくなった。またいじめではないかと思ったけど、東雲さんは手を止めずに探している。
健気な東雲さんのために探そう。そう思い、草をかき分けながらあたりを見渡す。
東雲さんは頑張って笑っているようだった。
なんて声をかければいいだろう。言葉が思いつかず黙り込んでいると、委員長の声が聞こえてくる。
東雲さんがいじめを受けていることを、委員長も前から勘付いていたように思う。
私と同じく、言葉選びに悩んでいるように見える。
自分が同じ状況だったときのことを思い出しても、なんて声をかければ正解なのかわからない。
感じ方、捉え方は人それぞれだ。
自分が傷つきたくないのと同様に、人を傷つけたくもない。
人と関わることを諦めた私には、こんなに大切な時に、言葉を伝える勇気すら足りないんだ。
☆
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。