みんなが寝静まる中、疲れているにも関わらず、私の目は冴えていた。
常夜灯のわずかな灯りを頼りに、私は部屋を抜け出す。
今日1日、クラスメイト達と行動を共にして多少会話をした。慣れない事で緊張はするし、適当な人付き合いも意外と疲れるものだとわかった。
最低限の電気しかついていない暗い廊下を抜けると、テーブルライトでほんのりと明るいロビーに辿り着く。
柔らかそうなソファに座ろうと歩み寄ったが、そこには誰かの人影があった。
その後ろ姿は私がよく知る彼で、思わず名前を呼んでしまう。
振り向いた彼は、少しも爽やかな笑顔をしていなかった。
アンニュイな雰囲気で、疲労の見える作り笑いを浮かべている。
弱っていそうな江川を放っておけず、私は彼の隣に座った。
お腹を抱えて笑っているその表情は、私には作り物には見えなかった。
素直に嬉しい。
よく思い出してみれば、たしかに初めて話した時より、色んな表情を見せてくれている。
けど、それは一体いつからだっただろう?
そういえば、そもそもなんで私に話しかけたのか聞いたことがない。
照れくさそうに笑う江川を見たら、つられて私まで恥ずかしくなってしまう。
たしかに最初は、わけのわからない奴がちょっかいを出してきたから、さっさと飽きろなんて思っていた。
けど、悪い奴じゃないのはすぐにわかったし、話していて楽しい。
もう、心配するくらいには情がわいている。
私が恥ずかしくなっただけのこの数分間を消してしまいたい。
宿泊研修は、最初に思っていたほど悪くなかった。
私とどこか似ていて、信用できそうな2人と仲を深められたから。
☆
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!