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第10話

大切な友達
2,347
2021/12/01 04:00


 あれから数日、無視をしていただけの3名を除き、いじめていた女子達は全員出席停止処分になった。

 沙月へのいじめは完璧になくなり、また彼女に自然な笑みが戻ってきている。

東雲 沙月
東雲 沙月
今日は手作りの琥珀糖を持ってきたよ!
柴野 由菜
柴野 由菜
へぇー、私これ初めて
東雲 沙月
東雲 沙月
え、そうなの!? じゃあ、まだお昼じゃないけど、少し食べちゃおう
江川 弘桜
江川 弘桜
俺にもちょーだい
東雲 沙月
東雲 沙月
うん、どうぞ!


 久しぶりに平和な学校生活を満喫している。




 けど……。

他クラスの女子1
あの髪短い方の子だよ。机蹴り飛ばして、女子の顔面殴ったんだって
他クラスの女子2
あー、なんかすっごい音聞こえてきた日あったね」
他クラスの女子1
それそれー。目つき悪そうだし、怖いよねー


 私がしたことは学校中で噂になり、尾ひれがついて、不良扱いされるようになっていた。

 怒りをぶつけてしまったのだから、自業自得ではある。

 先生にもたくさん注意されたけど、私は別に後悔はしていない。



 沙月はずっと、やられっぱなしだったんだ。あれくらいはしないと気がすまない。

東雲 沙月
東雲 沙月
……ごめんね、由菜ゆなちゃん
柴野 由菜
柴野 由菜
ん、大丈夫だよ。あの人たちに何言われてもどうってことないし
江川 弘桜
江川 弘桜
よっ! さすが、柴野しばのさん!
柴野 由菜
柴野 由菜
あんたの顔面は手が滑ったらいつでもぶん殴れるから気をつけろ?
江川 弘桜
江川 弘桜
ごめん、ごめん! まぁ、この噂は名誉めいよくらいに思っていいんじゃない
柴野 由菜
柴野 由菜
いや、そこまでは思えないけど
江川 弘桜
江川 弘桜
怖がられたりするだろうけど、あの時の柴野さんはかっこよかったよ
東雲 沙月
東雲 沙月
うん! 本当に!
柴野 由菜
柴野 由菜
……怖いって言ったらさ、絶対に私より江川えがわだと思うんだよ。あの般若はんにゃみたいな顔から笑顔になったの怖くなかった?
東雲 沙月
東雲 沙月
私に向けられてるものじゃないってわかってたけど、あれは声が出なくなるほど怖かった
江川 弘桜
江川 弘桜
あー、それもう忘れて


 江川は机に突っ伏して顔を隠してしまう。

柴野 由菜
柴野 由菜
けど、私は江川もちゃんと怒ってるんだってわかって安心したよ。……たくさん酷いこと言ってごめん
江川 弘桜
江川 弘桜
いや、俺も保身とか立ち回りとか色々考えて、気持ちを無視してごめん
東雲 沙月
東雲 沙月
あのね、由菜ちゃんは私の気持ちを大事にしてくれて、弘桜くんは冷静に私に必要なことを教えてくれたの。2人共いないと私は話そうって気持ちになれなかったと思う。だから、2人がいてくれて本当に良かった。ありがとう
江川 弘桜
江川 弘桜
うん、ちゃんと解決してよかった
柴野 由菜
柴野 由菜
本当にそう。これでやっと安心できる


 けど、沙月さつきはなにか言いよどんでるようで、気まずそうに口を開く。

東雲 沙月
東雲 沙月
け、けど……ね。もう、2人共、あんなに怒ったりしない……で。私を思ってっていうのは、わかってるんだけど。少し……、うぅん、すごく、とっても……怖かった


 沙月は今にもしぼんでなくなってしまいそうな声を出し、勢いよく頭を下げて「ごめんね」と言った。

 きっと、飲み込まずにネガティブな気持ちを言ってみたんだろう。

 そんなところも可愛くて良い子だな、と思う。

柴野 由菜
柴野 由菜
ん、気を付けるね
江川 弘桜
江川 弘桜
俺も。まぁ、俺は柴野さんより怒りっぽくないから、もうあんなことないと思うけど
柴野 由菜
柴野 由菜
んー、なるほど。手滑らせていいってことね?
江川 弘桜
江川 弘桜
あー、ごめん! 冗談だから!
東雲 沙月
東雲 沙月
ふふっ、なんか嬉しい。辛かったけど、私達最初の頃より仲良くなれたよね?


 沙月は初めて話したときよりも幸せそうに微笑みかけてくれた。


 私もこんなに仲良くなれるとは思っても見なかった。

 きっと、2人が居てくれるから、あんな噂があっても楽しく過ごせている。



柴野 由菜
柴野 由菜
あのさ、……友達になりたい
江川 弘桜
江川 弘桜
……え? 今更?
東雲 沙月
東雲 沙月
……わ、私もう友達だと思ってた
江川 弘桜
江川 弘桜
たしかに俺拒絶されてたけど、……宿泊研修の時点で友達になったと思ってたよ
東雲 沙月
東雲 沙月
私も!
柴野 由菜
柴野 由菜
(あー、これはやった。もう、わかった。こういうのは改めて言うものじゃないんだ)
東雲 沙月
東雲 沙月
ふふふっ、由菜ちゃん顔真っ赤
柴野 由菜
柴野 由菜
やめて、今無理。もう無理
江川 弘桜
江川 弘桜
はいはい、落ち着いてね
柴野 由菜
柴野 由菜
江川は……後でデコピン
江川 弘桜
江川 弘桜
手滑ってデコピンはすごい優しいんだけど、それでいいの?
東雲 沙月
東雲 沙月
由菜ちゃん、暴力なんて本当は振るわないものね
柴野 由菜
柴野 由菜
んーー
江川 弘桜
江川 弘桜
やっぱ、柴野さんって可愛いよね


 私はその言葉を聞いた瞬間に、江川の額を人差し指で弾いた。

江川 弘桜
江川 弘桜
いったぁ! すごい力入れたでしょ!?
柴野 由菜
柴野 由菜
仕方なかった
江川 弘桜
江川 弘桜
なにが!?
東雲 沙月
東雲 沙月
ふふっ、もう、弘桜くんがからかうから。由菜ちゃん、ほら琥珀糖食べよう
柴野 由菜
柴野 由菜
ん、美味しい


 友達がいらないなんて、やっぱりそんなことはない。


 1人だと足りないところがあって、きっと、そんな時に助けてくれるのが友達だ。

 また辛いことがあっても、沙月と江川がいてくれれば乗り越えられる。


 大切な友達ができて、私は今すごく幸せだ。







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