第8話

コンサート中の山田さんと
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2018/04/05 13:12
「騒げー!」


『キャーッ』




そんな彼達の声で一斉に会場が湧く。



ここへ来るたび改めて実感する私と貴方の距離。



「涼介」



彼の名前を呼んでみても本人に聞こえているワケがなく、


当たり前のように私の声は周りの歓声でかき消される。




最近ね、思う事があるの。



貴方が有名になるにつれ私だけが一人取り残されている様な気がして、


私の存在が涼介に負担をかけているだけなんじゃないかって、


不安で不安で仕方ないよ。




私は貴方の側に居ていいのかな?





「どうしたらいいんだろ私…」



こんな終わりのない自問自答に答えが出るわけもなく、



ただやりきれない思いだけがぐるぐる胸の中を支配する。





『キャー!』





そんな時だった。



やりきれない思いを隠す様に下を向いていたら



さっきまで彼達に向けられていたはずの歓声が突然私の方へ向けられたのだ。




いったい何事かと思って視線を上に向けると




そこには思いもよらないモノが私の視界いっぱいに映り込んだ。




「やっと見つけた…っ」

「涼、介」



アンコール中なのだろうか、



額に汗を滲ませながら私の前に涼介が立っていたのだ。



「ど、どうして…?」


「あなた探すの苦労したっつの。はいこれ」





周りに聞こえないように笑ってそう言うと、



涼介は私に色紙を渡して何事もなかったかの様に舞台の上へと戻っ行くではないか。




そして私の方へ向けられていた大きな歓声も




涼介の動きと連動してまた舞台上へと向けられた。



「な、何だったの…」





まさか涼介がこんな大胆な事をするなんて



思ってもみなかったから只々驚きを隠せない。




さっきの会話が誰かに聞こえていなかったか



内心どぎまぎしつつも、



さっき渡された一枚の色紙を何気なく読み上げた。



「…」




ああ、貴方って人は本当に






「なにこれ…きったない字…っ」





ごめんね、涼介。


どうして私は君からこんなにも



想われていたのに不安になっていたんだろう。





「私だって涼介事大好きだよ…っ」






少し折れ目のついた色紙に書かれていたのは




不器用な貴方なりの精一杯な愛の言葉。









今日は来てくれてありがとう。

俺はこれからもあなただけを、









  愛してる







不器用な貴方
(精一杯の大好きを貴方に)

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