私の上に 跨っているのは可愛い顔のイケメン。
ふわふわの柔らかそうな髪に、淡い栗色の瞳。
彼は口を塞いでいた手を離し、のし掛かるように私に抱きついてきた。
鎖骨に彼の吐息がかかって、心拍数は急上昇。
顔が熱くて沸騰寸前…!
まるで高機能電気ケトルみたいに、顔の熱でお湯が沸かせそう。
そ、その前にちょっと待って!
これって妄想?現実?
失恋のせいで、私の頭おかしくなっちゃったの?!
それに、どうして私の名前を知って……
私はベッドサイドに置いてあるスマホを確認し、そっと手を伸ばす。
ぱし!
涙目で首をかしげる姿は、捨てられた子犬みたい。
ウルウルと上目遣いで見つめられたら、
そんなの……そんなの!
小さな声でカウントする姿が、あまりにも寂しそうで……。
私はぎゅっと目を閉じて必死に言葉を絞り出す。
ふわりと優しく抱きしめられて、アヤトくんのアロマみたいな優しい香りが体を包み込んだ。
彼は少し諦めたように指をぱちんと鳴らした。
ぽんと弾ける音とともに、目の前に大きな猫形の抱き枕が現れる。
私の上からおりた彼は、
今度は横に寝転がって抱き枕越しに私を抱きしめる。
手触りのいいふわふわの抱き枕のおかげで、心臓も落ちついてきた。
目の前の抱き枕に夢中になっていると、拗ねたような声が聞こえてくる。
耳元で響く、少し高い透き通るような声。
アヤトくんの無邪気な笑顔が抱き枕の向こうに見えて、胸がキュウっと苦しくなった。
意を決して言った言葉にアヤトくんが目をまんまるにして驚く。
少し照れたような顔で、わざと見せつけるように私の手の甲にキスを落とす。
私の目をじっと見つめながらーー。
息を飲んだ。
まるで映画のワンシーンのようなキス。
彼の瞳から目が離せないーー
ボッと頬が熱を持ち、ドキンドキンと全身を揺らすほど心臓が動いてる。
そのまま彼は指を絡ませて、恋人繋ぎをした。
まるで繋がった手のひらから、溶けてしまいそう。
グルンと視界が回って、ベッドの下に抱き枕が転がり落ちた。
私の両足の隙間に彼の太ももが割り込んで……。
さっきまでの可愛さが消えて今は男らしい顔。
それに、「僕」から「俺」に変わってる。
アヤトくんは小悪魔な笑顔を浮かべて、耳元で囁く。
徐々に近づく彼の顔。
近すぎる……唇と唇がつきそうなキョリ。
私は思わずぎゅっと目を閉じた。
部屋に鳴り響くのは、ネコちゃんタイマーの音。
まるですべて夢だったかのように、彼は消えていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。