買ってしまったーー。
陳列棚の奥の奥。
『イケMEN!』カップ麺を見つけた瞬間、もうカゴに入れていた。
るんるんで家への道を駆け抜ける。
玄関のドアを勢いよく開けて、制服も着替えず部屋へと直行!
カチッというお湯が沸いた幸せな音が部屋に響いた。
モクモク
モクモク
モクモク
モクモク
ボン!!
部屋中に充満した湯気の中に薄っすらと人影が見えた。
でもそれは明らかにガタイのいい人。
目の前に現れたのは、スラリとした高身長にスーツを着こなすハーフっぽい男の人。
凛々しい眉に、くっきりとした二重。
それに固く結ばれた口元が男前。
そして私を見る瞳は鋭くて……。
思わず手が滑って、盛大にお湯をこぼしてしまう。
ばしゃっ!!
勢いよく払い除けられた電気ケトルは床に転がった。
そして鼻先がぶつかりそうなキョリに彼の顔。
私を庇うように抱きしめる体勢に気づいて、ぼっと顔に熱が集まる。
無意識なのか少しヒリつく指先を掴んだと思えば、
ぺろりと舐められた。
ばびゅんと効果音が付きそうなくらい彼と距離をとって、頭の中を整理する。
よく見るとスーツにトランシーバーをつけた妙なファッション。
どこかのドラマから飛び出して来たような、
まるでーーー
彼の姿に納得したその時、大きな揺れが私達を襲った。
トウヤさんはすぐさまベランダの窓を数センチ開けた。
そして私を守るように覆いかぶさった。
グラグラと揺れ続ける間、彼は私を無言で守る。
彼の大きな身体にすっぽりと包みこまれて、心臓がどくどくと音を立てる。
しばらくして揺れが収まっても、なぜか彼は無言で私を離さない。
無口なのか、短い言葉で返してくるけどその場を動くつもりはないみたい。
上に覆いかぶさるイケメンに思い切って言葉を絞り出した。
と、急にさっきよりも強く抱き寄せられ、至近距離の整った顔に息が詰まる。
ふと足にすり寄ってきたのは、近所のノラ猫、ボス太郎だった。
地震対策で彼が開けた窓から入り込んだみたい。
足元の猫を睨む目はすごく鋭い。
ずいっとボス太郎を彼に押し付けて、自然と距離をとることに成功。
トウヤさんは恐る恐る抱きかかえた。
ふわりと微笑んだ彼の顔に釘付けになる。
彼の頬が微かに赤く染まり、綺麗な二重の瞳が薄められる。
さっきまで固く結ばれていた唇は、思っていたよりも柔らかそうで……。
ふにっ
無意識に手が伸びていた。
唇に触れた指先が熱くなって、とっさに自分の手を引っ込める。
ボス太郎が私の声で驚いて、彼の腕から飛び降りて逃げていく。
トウヤさんの顔はトマトみたいに真っ赤だ。
その照れ顔に私の心臓がギュンギュンと音をたてる。
頭の血管がショートしそうになったその時、無情にも猫ちゃんタイマーが鳴り響いた。
またしても彼は跡形もなく消えた。
まだ指先に少しの熱を感じて、私はその場にヘタリと崩れ落ちた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。