私にとってイケメンは、
触れることなんて恐れ多い鑑賞対象。
……だったはずなのに!
私の部屋にはミスマッチな着物姿の強面な彼。
傷の入った鋭い目でこちらを見つめるヤマトさんは、ついさっきカップ麺から飛び出してきたとは思えない。
でも私には確かめなきゃいけないことがある!
手を伸ばした先は、彼の首筋。
なめらかな肌、そして少し熱い体温と微かにトクトクと脈を感じる。
急に手を取られ、するりと着物の襟元へと誘導される。
思ったより防御力のない彼の着物は、一瞬にして肩から滑り落ちた。
鍛えられた筋肉質な上半身。
胸から肩にかけて登る鮮やかな龍と目が合った。
ぐいっと腕を引かれ、ヤマトさんのむき出しの胸に顔面から飛び込む。
痛いくらいにぎゅうっと腕を回され、体が軋んだ。
低く痺れるような甘い声、そして密着する身体にバクバクと心拍数が上がっていく。
心なしかヤマトさんの心音も速まっていく。
で、でもここで流されるわけにはいかない……!
前回もその前も、見事に話をそらされまくった私は謎の解明に躍起になっていた。
他のイケメン達もそうだった。
カップ麺から飛び出しきては私を好きだと迫ったり、私の名前も最初から知ってた……。
会ってるーーー?
嬉しそうに笑ったヤマトさんは、狂おしいほどかっこよくて、口から心臓が飛び出しそうだ。
でも本当に、心当たりがない。
それにその理論でいけば今までの他のイケメンたちとも前に会ってたってこと……?
だから名前を知られてた、とか?
ぐっと顔を近づけられ、思わず言葉を飲む。
頭の中が真っ白になった。
目の前には傷のある閉じられた目。
彼のまつげが頬に触れている。
そして、唇から伝わる彼の熱が急速に私の体を火照らせる。
彼は私から離れて、少し悲しそうに呟く。
私は彼の顔をぼーーっと見つめながら、今起きたことを脳内でリプレイした。
自分の身に何が起こったのか理解した時、もうヤマトさんはいなかった。
虚しく鳴り響くネコちゃんタイマーの音。
ボソリとつぶやくと、ガタンッと何かが壁にぶつかって「いて!」と声がした。
それは前回も聞いたあの謎の声。
何も見えないけど、たしかにそこに誰かいる。
小さな舌打ちは案外すぐ近くで聞こえた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。