「お前は一度死んでいる」
ぐるぐるとその言葉の意味を考えていたせいで、昨日の夜から一睡もできなかった。
カップ麺でイケメンがお手軽に楽しめる天国とはこれいかに……。
そんなピンポイントな天国ある?!
と内心ツッコミをいれつつ、埒が明かなくなった私はまた、例のカップ麺に答えを求めた。
モクモク
モクモク
モクモク
モクモク
大量の湯気が部屋を包み込むのにも、慣れたものだ。
現れたのは、長い髪に少し中性的な色素の薄い儚げなイケメン。
切れ長のアッシュグレイの瞳からは、そこはかとなく色気が滲んでいる。
形のいい唇から飛び出したのは、毒舌なオネエ言葉。
不躾な目線でぐるりと部屋を見渡すイケメンは、少し眉根を寄せてこちらを見た。
むぎゅっと頬をつねられて見惚れていた自分に気づく。
突然ぐっと近づかれたと思ったら、チアキさんは私をすっぽりと腕の中に閉じ込めた。
ふわりと私を包む、少しセクシーでフローラルな香水の匂い。
自分の脈を意識しすぎて、ドキドキと鼓動が速くなっていく。
思わず顔を上げると目の前にチアキさんの綺麗な顔。
チアキさんの長い髪が私の頬をかすめた。
口から飛び出そうになっていた心臓をゴクンと飲み込んで、私は彼の腕から逃れようと身を引いた。
その時ーー
階段をのぼる足音はお母さんだ。
私はチアキさんの手を引き、とっさに押入れの中へと隠れる。
むぎゅう……
狭い押入れの中、なぜか正面からチアキさんに抱っこされる態勢になってしまった。
ドタバタとお母さんの足音が近づいてくる。
その足音はちょうど押入れの前で止まった。
徐々にお母さんの足音が遠ざかり、ほっと一息ついたその時…
口を塞いでいた手の平をチアキさんが舐めた。
そのせいでバランスを崩して、目の前の彼の胸に突っ込んでしまう。
いつのまにか背に回されていた腕は思ったより固くて、身を引けない。
薄暗い押し入れの中、そしてゼロキョリの密着度にぼっと顔が熱くなった。
目の前のフェロモンの塊にバクバクと心拍数は上昇していく。
そして、チアキさんの眼がギラリと光った気がした。
暗がりのせいでチアキさんの表情は読めない。
でも、なんだか怒ってるみたい。
そういえば
もしあのネコを助けた時死んでいたら、
好きな人に一生思いを伝えられなかったんだ……。
車に轢かれた瞬間、すごく後悔したっけーー
顎を掬いあげられ、目の前には透き通るきれいな瞳。
思ったより低いチアキさんの声が、耳の奥に響いてドキリと心臓が跳ねる。
ぎゅっと閉じた目を開いた時、押入れの中にはもう、私一人だけだった。
また少し寂しさを覚えた時、ぽんと誰かに頭を撫でられたような感覚がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。