第38話

皇帝と吊られた男:2
216
2022/03/31 17:45
一ヶ月近く何も言わずの更新停止、誠に申し訳ございません・・・。
最近は少し忙しく、あまり執筆が進みませんでした。
どのくらいかかろうとも絶対に完結させたいと思っておりますので、今後とも何卒よろしくお願い致します。

カルカッタ・・・人口千百万人、浮浪者の数、二百万を越す。
十九世紀のイギリス人はこの街を『この宇宙で最悪の所』と呼んだ。

「要は慣れですよ、慣れればこの国の懐の深さが分かります。」
「・・・中々気に入った。いい所だぜ。」
「マジか承太郎!マジに言ってんのおまえ?」
あの人集りから離れてから少し。
ある店にて、インドの庶民的な飲み物である、チャーイを飲みながら、ジョースター一行は適当な話をしていた。
「フ〜〜、インドか・・・驚くべきカルチャー・ショック・・・。慣れれば好きになる、か・・・ま、人間は環境に慣れるって言うからな・・・。──手洗いはこっちか?」
「はい、これをお使いになって下さい。」
ポルナレフがそう聞くと、店員は何故か長い木の棒を渡してきて、ポルナレフの頭には?マークが浮かぶ。
「・・・・・・?何・・・?この木の棒は?おい?」
そう聞いても店員はもう行ってしまったようで、謎の木の棒を持たされ、訳の分からぬままポルナレフは手洗いに向かう。
「──ん、妙な形をしている便器だが、中々綺麗じゃないの・・・・・・ナイスガイの俺はトイレの汚いのだけは我慢ならんタチだからな。」
意外と綺麗な便器に、ポルナレフは上機嫌に用を足す。

・・・・・・・・・・・・・・・。

「・・・うっ!ぎィにゃあああ!うわああああ!」

その只事では無い悲鳴に、店員が駆けつけて来る。
「いかがなされましたか?」
「い、い、いい、''いかがなされましたか?''じゃあないッ!べ、べべべ、べ、便器の中に!し・・・信じられん!便器の中に!──ブタが顔を出してるぞッ!」
このまま出て来てしまいそうなほどにふがふがとその顔を出している豚の存在に、ポルナレフは開いた口が塞がらない。
「インドでも珍しい方式をとったトイレですが、ちょいと下の豚小屋を設計ミスで浅く作りすぎまして・・・、豚が腹を空かしていると、顔を出してくるんですわ。」
「そっ、そういう問題を聞いとるんじゃねーーだろーがッ!えっ!なにィ!するってーーとこのブタの餌はッ!そのためにいるのか!」
「だからですねー、これを使うんですよ、どれ!貸してください。──これで、」
そう言うと店員は木の棒で豚の額を突く。「ブギーッ」という悲鳴が、便所内に響き渡る。
「『突き』をくらわして、豚が怯んだ隙に用を足してください、ね。」
サラリとそんな事を言ってやってのける店員に、ポルナレフの顔に汗が浮かぶ。
「うちの店長なんかはシリを豚に舐めてもらえるから、綺麗でいいなんて言ってますがね、ケケケケケケケケ!──・・・それじゃ、ごゆっくり。」
「ま、待て!ひとりにするなッ!」
焦りそう言うが、店員は無情にも行ってしまった。
行ってしまったものは仕方ない、と、ポルナレフは冷や汗をかきながら、便器を見てゴクリと喉を鳴らす。

「こいつぁ・・・一生馴染めんような気がするな・・・俺。」
(ホテルまで我慢しよっと・・・)

結局、世界のトイレ事情─インド編を知る事となっただけのポルナレフは、手を洗い、フーー、と息をついた。
手を拭き、顔を拭く。
──すると、
「!!」
鏡越しの窓にくっつく影が見える。そいつは、ポルナレフに明らかな殺意を抱いている眼をしていて──・・・、
ポルナレフはバッと顔を振り向かせるが、その窓にはインドの街並みしか見えなくて。
「い、いない・・・き、気のせいか・・・今、窓の下になにか異様なものがいたような気がした、が・・・」

「つー、無理もねーか・・・便器の中にブタがいたんだからな、そりゃあ窓の外に怪物の幻でも見るな、インド・カルチャーショックってやつか・・・」

そう納得して、ポルナレフは皆がいる席へと戻ろうとする。──が、
もう一度鏡を見た瞬間、またソイツが現れ、窓を開けてこちらに侵入してくる。
「なにィーーー!」
それに驚き、もう一度窓を見るが、ソイツの姿は全く無い。
「な!?」
けれど鏡を見ると、ソイツの姿が見える。
「なんだ!?コイツは!?鏡の中だけにッ!見えるッ!」
どう対処するかを考えていると、ソイツが腕に仕込んでいるらしい刃物を、鏡の中のポルナレフに突き立てようとする。
「な、なにかヤバいッ!シルバーッチャリオッツ!」
鏡の中の敵に何を攻撃すればいいのか分からないので、思わず目の前にあった鏡をシルバーチャリオッツでバラバラに割る。
「なっ、なんだァ〜〜コイツはッ!?ち、ちくしょうッ!」
ポルナレフは急いで店の人間の左手を見て、その次に出入り口の扉を開け見回すが、何処にもそのような姿は見当たらない。
「スタンド!ほ・・・本体はどいつだ!?どの野郎だ!この人の数・・・く、くっそぉ〜!?」
「どうした、ポルナレフ!」
「何事だ!?」
ポルナレフの急な行動に、ジョースター達もポルナレフのもとに集まる。
「いまのがッ!今のがスタンドとしたなら・・・・・・ついに!ついにヤツが来たぜッ!承太郎!お前が聞いたという鏡を使うというスタンド使いが来たッ!」
分かってはいたが、こんなに早かったのか、と承太郎は目を俯かせる。
(・・・記憶はあまりアテにならない、な。)
「俺の妹を殺したドブ野郎〜〜ッ!ついに会えるぜ!」
さて──、これからどう行動すべきか。

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