第90話

全国大会 ー頑張ってー
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2018/11/22 08:44
ウォーミングアップ場所へ戻ると、すぐに男子100m短距離走決勝が始まるというのに、龍と宇根っちが待っていた。
龍
…お疲れ様
颯斗
颯斗
…惜しかったな
楓
…うん、ありがとう…
凛
…あー、やばい。せっかく堪えたのに、また涙が出てきちゃったじゃないか〰︎〰︎〰︎〰︎
龍
凛、すげー顔してるぞ?涙と鼻水でグショグショw
凛
黙ってよお〰︎〰︎〰︎〰︎ズズッ…女の子に失礼でしょうが…グスッ…
龍と宇根っちが励ましてきたおかげで、凛がまた泣き出してしまった。

グショグショの顔をさらに濡らしてグショグショにする。
楓
あーもう!ほら、タオル。これで拭きな!
凛
あ゛〜ありがどお〜…ズビッ…
私からタオルを受け取ると、それをビッショビショに濡らして涙を流した。

…もう、号泣ね。
龍
久しぶりに楓の泣いてるとこ見たわー
楓
え、見られてたの?
龍
そりゃ、あんな目立つとこで抱き合って泣いてたら、嫌でも目立つわ
楓
…あっそ
私は恥ずかしくなって、そっぽを向いてしまった。


中学校の卒業式以来泣いていなかったから、久しぶりに涙腺が緩んでびっくりしたんだよね。

去年の全国大会も先輩たちのために泣けなかったし…失礼だとは思ったけど。
凛
あ〜…ズビッ、楓、タオルありがと、グスッ…
楓
あー、はいはい…って、洗ってから返すとかいう考えはないのかね、凛には。こんなグショグショに濡らして
凛
アハハ〜…ズビッ、ごめんごめん、じゃあ洗ってから返すね
楓
じゃあとは何だ!じゃあとは!
思わず、受け取りかけたタオルを使ってパシッと凛の頭を叩いてしまった。
凛
えへへ〜♡
楓
えへへ〜♡じゃないわ!もう…
タオルを凛に返すと、聞きたかったことを2人に聞いた。
楓
ねぇ、2人とも。急いでるところ悪いんだけどさ
颯斗
颯斗
…ん?何だ?
龍
どーした?
楓
『楓、負けんな』っていう応援が聞こえたの知ってる?
龍
おう。そりゃ、めちゃくちゃでかい声だったからな
颯斗
颯斗
…俺も聞いた
楓
それなんだけどさー、凛が宇根っちなんじゃないかって言ってるんだけど本当?
私がズバリ聞くと、2人は目をパチクリした。

が、そのキッチリ10秒後。
龍
え!?宇根っちそーなの!?楓のこと、『楓』って呼んだの!?え、楓の家族とかじゃなくて!?
颯斗
颯斗
…落ち着け、龍。俺は、呼んでないって。そもそも俺、叫ばないし
楓
あれ?2人、一緒にいなかったの?
龍
ああ…丁度、選手紹介のあたりで、宇根っちが『腹が痛い』っていうもんだから、トイレに行ったんだよ。それでそのまま
颯斗
颯斗
…そう…だから、お前たちのレースはトイレの窓から見たってわけ
凛
ほんとにー?隠してるとかじゃないでしょーねー?
泣き終わった凛は、厳しく2人に詰め寄った。
楓
隠してるとかではないと思うよ、凛。ほら、龍ってバカ正直だから嘘つくの下手じゃん?
凛
ああ…それもそっか
龍
おい、地味に傷つく言葉を言うのはやめろ
龍が私と凛の肩をガシッと掴んだ。
楓
え、だって本当のことじゃん
凛
そうそう
龍
……宇根っち、何か言ってくれないか
颯斗
颯斗
…いや、俺も正論だと思うけどな
龍
宇根っちぃぃ!!
今度は宇根っちの肩をガシッと掴んだ。

…と、そこで。
係員
男子100m競争決勝に出る方!集合となりまーす!
颯斗
颯斗
…あ、時間だ
龍
ちぇ、疑いは晴れないままか
楓
…大丈夫。一生晴れないと思うから
龍
…楓ー…
おーお、龍の目つきが怖いよー…w
凛
…ま!2人とも頑張って!
颯斗
颯斗
ん…お前ーらのかたきとってくるわ
楓
お、それは頼もしい
龍
…今度こそワンツーフィニッシュだ
龍と宇根っちの瞳には炎が煮えたぎっていた。
楓
…じゃ、頑張って!
龍、颯斗
…おう!
私は2人の背中をバシンと叩き、送り出した。
────頑張れ。必ず敵をとってきて…!

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