楓side
宇根っちの予選が終わった直後のこと。
金本高の観客席が異常な程に盛り上がるなか、招集場所にいた私たちは天を仰いだ。
ハムスター…ああ、失礼。ゴホン…えー、風華が高峰に向かって頰を膨らませながら、宣戦布告をした。
…向こうには届いていないだろうが。
龍の言葉で私は風華からスタンドの方へ視線を向けた。
帰ってきた宇根っちは……真っ黒なオーラを漂わせていた…
…あ、ダメだこれ。明らかに不機嫌だ。
凛と龍の言葉で宇根っちの真っ黒なオーラが更に濃さを増した…こりゃまるで、紅蓮の炎ならぬ、漆黒の炎だな…
風華も一生懸命励まそうとしているが、全く聞いていなさそうだ…
宇根っちはくしゃっと笑うと桜泉の観客席に向かった────が。
宇根っちの視線は、私の右足へと注がれていた。スパイクから微妙に、包帯が出ていたのだ。
私は思わず、右足を後ろに引きずらせた。
…何故だろう…ライバルのプライドからか、この先の言葉が出てこない。
宇根っちは何も言わない私から視線を外し、龍たちの方に視線を向けた。
宇根っちは再び、私に鋭い視線を向けた。
私は思わず目を逸らしてしまった。
…何を宇根っちに言い訳してるんだろうか…
私がそう言うと、宇根っちはため息をついた。
すると────
そう言いながら、私の頭をポンッと撫でた。
そして、観客席へ戻っていった…
…珍しすぎる…宇根っちが人のことを心配するなんて…
不覚にもドキッとしてしまったじゃないか…
あんな…あんな、切なそうな顔を見せられたら…
凛と龍の中で、新たな疑惑が生まれた瞬間だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。