第96話

全国大会 ー新たなる敵ー
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2018/12/15 11:23
壁にもたれかかり、うなだれていると、












???
大丈夫?
楓
…?
頭の上から声が降ってきた。

ゆっくり首を持ち上げてみると、真っ黒なフードを被った男が私の真横に立っていた。

フードの所為で顔は見えなかったが、赤味がかった茶髪がフードの横からはみ出していた。

私は眉間にしわを寄せながら彼を睨み付けた。
すると男は、慌てたように両手をパタパタ振った。
???
あー、別に怪しいものではないよ!ただの通りすがりの人!うずくまってたから、大丈夫かなぁと思って
楓
……誰?
私が恐る恐る立ち上がりながら問いかけると、男はクスリと笑った。
???
言ったでしょ?ただの通りすがりの人って。名乗る必要はないさ。そういう君は…桜泉の伊藤 楓さんかな?
楓
…っ!
…何故名前を知っている…

……ああ、でも、レースに参加しているなら知っていても当然か。今だって、桜泉のジャージを着ているし。
???
ところで…400mリレーの準決勝、出られなくなったんだって?
楓
!!なんで知ってるの!?
???
ごめんねぇ…さっきチームメイトたちと話してたところ、聞いちゃった。それにしても残念だったねぇ
男はニヤニヤ笑いながらそう言った。


…こいつ、何者だ。

桜泉の味方ではないとは断言できる。こんな…こんな笑い方をする奴が、味方だとは思えない…

私は痛む足を引きずり、警戒しながら後ずさった。
???
ああ、そんな怯えないでよ。僕はただ…
楓
…何が言いたいんですか
私は男の言葉を遮って言うと、男はヒュ〜と口笛を吹いた。
???
噂通り、はっきりとした性格なんだね、君は。…ではお望み通り、単刀直入に言おう
???
…僕はただ、挨拶に来ただけさ。伊藤 楓さん?
楓
挨拶…?
???
そう。まあ、“成功”して良かったよ
楓
…何の話?
???
今は気にしなくていいよ。そのうち分かるから
彼はそう言うと、再びニヤリと笑った。
???
…じゃあ、挨拶も済んだことだし…そろそろお暇しようかな
楓
…………
男は『またね』と言って、背中越しにヒラヒラッと手を振りながら、去っていった。

…と思ったら。

数歩進んだところで、こちらを振り向いた。
???
……気が変わった
楓
………?
私が首をかしげると、男はもう一度私の方に向かってきた。
???
さっき、君は僕に『誰?』と聞いたよね?
楓
…そう…ですけど…
???
その質問に答えよう
彼はそう言いながら、パサリとフードを脱ぎとった。

すると、鮮やかな赤味がかった茶髪と黄色い瞳が姿を見せる。
???
僕の名前は律。君と同じ高校3年生。君の敵
楓
っ!?
驚く私をよそに、律さんは今日一番の笑顔を見せ、今度こそ去っていった。
楓
君の…敵?
彼は確かにそう言った。

…またね、とも言っていた。
私は嫌な予感を感じつつ、彼が去っていた方向を睨みつけ、桜泉の観客席へ戻った。

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