仁side
楓が怪我をしたということで、招集場所がバタバタしている一方で、そのことに全く気づいていない桜泉の観客席は次に出てくる颯斗の予選に心を躍らせていた。
伊藤や龍たちのおかげで、伊藤の兄の棗さんとも気軽に話せるようになった。
綿谷は“超”という部分を強調しながら笑った。
…いや、顔は笑ってるけど目は笑っていないから、これは絶対何か考えてるよな…
さらっと流されて、俺は気恥ずかしくなってまた顔が赤くなってしまった。
そんなことを話していたらあっという間に、颯斗の予選開始時間となった。
アナウンスが流れると、予選第7組目の選手たちがスタートラインに並んだ。
そして、選手紹介のアナウンスが流れる。
ワァァァァッ!
その瞬間、桜泉の真反対の応援席から大歓声があがった。
どうやら、金本高の観客席はあそこらしい。
圧倒的な綿谷の目の良さに俺らが驚いているうちに、第3レーン、第4レーンの紹介が終わった。
そして────
ワァァァァァァッ!!
金本に負けないほどの大歓声が、桜泉の観客席からあがった。
颯斗は礼をすると、真っ直ぐ前を見据えたまま、足をぐるぐるとストレッチした。
俺たちは、高峰 新を最重要人物としてロックオンして、目の前の試合に集中した。
パァンッ!!
号砲の合図で勢いよく飛び出せたのは──高峰の方だった。
細身の高峰は、長い手足を使ってトップを維持する。
────しかしそこで屈する颯斗ではない。
何と言っても颯斗の長所は後半の伸びだ。
数十センチリードされていたが、だんだん巻き戻していき……同時にフィニッシュ…!
その瞬間、会場がどよめきに包まれた。
俺たちがそんな話をしているうちに、写真判定が行われていたらしい。
スクリーンに画像が映し出される…
1枚1枚映し出される画像には────
────わずかに、高峰のトルソーが先にゴールラインに入っていた。
その瞬間、金本高の観客席がワァァァァァァッ!と盛り上がった。
スタンドにいる高峰もガッツポーズをしていた。
山城兄弟の言葉をきっかけに下を覗き込むと…真っ黒なオーラを漂わせている颯斗の姿があった。
颯斗の姿にたじろぐ、俺たちだった…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。