第56話

全国大会 ー深まる謎ー
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2018/10/16 09:00
現在時刻9:45。

後15分で第1種目目の男子110mハードル走が始まってしまう。

周りにも迷惑がかかるから競技開始前に見つけたいんだけど…
楓
…無いな…
昨日のようにベンチ下などを探しているのだが、全く見つからない。
凛
楓ー?こっちも無かったよー
優月
優月
向こうも。特に手がかり無し
楓
…わざわざ、ごめん
あろうことか、凛や優月、男子たちと棗兄たちにまで探すのに手伝ってもらっているのだ。
私の不注意だし、1人で探そうと思っていたのに…
凛
こーら。そこは謝るんじゃなくて“ありがとう”って言うところだよ?
楓
…ごめん…ありがとう…
凛
だから、謝んないの!
桜泉の観客席の側でそんなことを話していたら────
萌
伊藤センパーイ
楓
…あ、萌
…久しぶりの登場だな。

まあ、こんなことは放っておいて…突然、萌が私たちに話しかけてきた。
萌
伊藤先輩のスパイクって、黒の袋に水色のシューズのストラップが付いてますよね?
楓
…ああ…そうだけど…
萌
もしかして、これのことですか?
そう言って萌が掲げてみせたのは────間違いなく、私のスパイクが入った袋だった。
楓
…っ!これ…!
私は萌から袋をもらうとその中身を確認した。

出てきたのは、やはり私のスパイクだった。
楓
あった〰︎〰︎〰︎〰︎!!
凛
良かったね〜!楓!
優月
優月
…でも、どこにあったの?
萌
…あの…
────と、その時。
龍
…おーい、楓ー。あったかー?って…その袋!
颯斗
颯斗
…警備員とかに話を聞いたが、そんな袋なかったって…あれ?
男子たちが戻ってきた。
龍
見つかったのか!
楓
そーなの!萌が持ってきてくれた!
龍
神崎がぁ〜?
龍と宇根っちは疑わしげに萌を見た。

萌は見つめられたのが嬉しかったのか、頬を紅潮させ、表情を緩ませた。
颯斗
颯斗
…それ、どこにあったんだ?
楓
あ、それ聞きそびれたんだった
萌
あ、えっとぉ。昨日、伊藤先輩が座っていた椅子の上に置いてありましたぁ!
颯斗
颯斗
…何?
…?桜泉のベンチの所は、昨日今日で探しまくったんだけどな…
龍
…お前、嘘ついてるんじゃないだろうな
萌
嘘じゃないですよぉ!私が盗んだって言うんですかぁ?
楓
たとえ萌でも、そんな見え見えな嘘はつかないと思う…
萌
それはそれで酷いですよ、伊藤先輩…本当にベンチの上に置いてあったんですって!
優月
優月
…楓に嫉妬したから?
萌
だから、違いますって〜!そもそも私、森田先輩や宇根先輩に嫌われることはぜーったいにしませんよぉ〜!
その口調のせいで既に嫌われているけどね…
龍
まぁ、お前の性格からしたらそうだろうな…
楓
てゆーか、そんなバレバレな場所に置くかな、普通
颯斗
颯斗
…やっぱり誰かに盗まれたと言うのか?
凛
何のために?
颯斗
颯斗
…それは…
宇根っちもそこで俯いてしまった。
謎は深まるばかりだった。

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