現在時刻9:45。
後15分で第1種目目の男子110mハードル走が始まってしまう。
周りにも迷惑がかかるから競技開始前に見つけたいんだけど…
昨日のようにベンチ下などを探しているのだが、全く見つからない。
あろうことか、凛や優月、男子たちと棗兄たちにまで探すのに手伝ってもらっているのだ。
私の不注意だし、1人で探そうと思っていたのに…
桜泉の観客席の側でそんなことを話していたら────
…久しぶりの登場だな。
まあ、こんなことは放っておいて…突然、萌が私たちに話しかけてきた。
そう言って萌が掲げてみせたのは────間違いなく、私のスパイクが入った袋だった。
私は萌から袋をもらうとその中身を確認した。
出てきたのは、やはり私のスパイクだった。
────と、その時。
男子たちが戻ってきた。
龍と宇根っちは疑わしげに萌を見た。
萌は見つめられたのが嬉しかったのか、頬を紅潮させ、表情を緩ませた。
…?桜泉のベンチの所は、昨日今日で探しまくったんだけどな…
その口調のせいで既に嫌われているけどね…
宇根っちもそこで俯いてしまった。
謎は深まるばかりだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!