パァンッ!!
────力強い号砲とともに、選手たちが一斉に駆け出した!
その途端、会場のボルテージが最高潮に達した。
まずスタートダッシュに成功したのは仙波姉。一気に前へと進み出る。
…さすが、去年の女子100m短距離走覇者だ…
続いて、三条、七瀬、大野が仙波姉のすぐ後ろにつけた。
伊藤も4人のすぐ後ろにつく。
いつでも追い越せそうな位置だ。
すぐにでも前に出れそうだけど…
他の3人もいつでも追い越せそうだ。
…この接戦、誰がいつ仕掛けるか…楽しみだ…
…………………………
楓side
くそっ…出遅れた!
私は今、怜、琴音、凛、雫の後につけている。
いつでも抜かせそうだけど…ここで仕掛けたら、確実に誰かにまた抜かれる。
くっ…!地味に足が痛いし…思った以上に加速をつけられない…!!
痛くてスタートダッシュ上手くいかなかったし…!
でも…でも…!ここで負けるわけにはいかないんだ…!!!!
私は自分の力を最大限に振り絞り、漆黒のオーラを身にまといながら、自分の得意所である後半戦に突入した────
…………………………
凛side
あー!やっぱり、怜は強いんだよな!!
今、私は怜のすぐ後ろを走っている。
隣に三条もいるから、一気に加速をつけたいけど〰︎〰︎〰︎〰︎!出来ないんだよ〰︎〰︎〰︎〰︎!
楓は私たちの後ろにいるから、いつでも抜ける状態だけど…やっぱり、痛そうにしてる。
…でも、ワンツーフィニッシュは諦めないよ!!
楓も漆黒のオーラを漂い始めたし…(苦笑)
負ける気はなさそうだ。
さぁ…桜泉のショータイム、始めるよ!!
…………………………
仁side
いよいよ、後半戦に突入した。
伊藤はもちろん、七瀬も後半の方が得意っちゃ得意。
…と、ここで、レースが動いた!
とうとう、七瀬が仕掛けたのだ!
七瀬は仕掛けるのがうまい。
一気に仙波姉に詰め寄り…抜いた!!
ワァァァァァァッ!!
その瞬間の桜泉の大歓声は凄まじいものだった。
だが、仙波姉もそこに食らいつき、抜きつ抜かれつを繰り返す。
しかし、そこで────
ワァァァァァァッ!!
────伊藤がトップに躍り出たのだ!
怪我なんて嘘じゃないかというような走りを見せる。
仙波姉は不意をつかれたみたいで、一瞬スピードを緩めたが、すぐに集中しなおし、伊藤を抜かそうとする。
そこに七瀬も食らいつき、優勝争いは伊藤、七瀬、仙波姉の3人に絞られた。
だが、伊藤にも限界がきているようだ。
少しずつ、少しずつ仙波姉に迫られている。
七瀬も仙波姉に詰め寄る。
その時────
『楓!負けんなっ!!』
聞き覚えのある声で誰かが叫んだ。
俺らがその声に驚いているうちに、トップでフィニッシュしたのは────
ワァァァァァァッ!!
誰だ!ってくらい、3人同時にフィニッシュした!!
これは…写真判定だ。
トップのタイムは11秒76となっている。
相当速いタイムだ。
もしも桜泉の2人のどっちかが、トップに入っていれば自己ベスト更新となる。
スクリーンに映像が映し出された。
観客たちは一斉にそちらを見る。
大城高校と桜泉高校の生徒たちは手を合わせ、祈るようにスクリーンを見つめる。
果たして結果は────?
スクリーンに映っていたのは────
ギリギリで仙波姉のトルソーが1番で滑り込んでいる姿だった。
ワァァァァァァッ!
その瞬間、大城高校の生徒たちが会場を震わすほどの大歓声をあげた。
惜しくも、伊藤が2位で七瀬が3位だった。
スタンドにいる仙波姉は輝くほどの笑顔を浮かべ、ガッツポーズをして大城高校の観客席の前へ走っていった。
落ち込む伊藤に七瀬は肩を叩き、励ましていた。
心なしか、その瞳は潤んでいるように見える。
伊藤も腕で顔を隠している。
伊藤と七瀬が1番力を注いでいた100m短距離走は、仙波 怜が二連覇を果たし、幕を閉じたのだった────
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。