(絵のテーマ、早く決めなきゃ……)
芽衣や佐々木より早く部活を切り上げた私は、トボトボと廊下を歩いていた。
1年生の教室の前に差しかかると、中からとっても楽しげな声が聞こえてきた。
チラッと教室内に目を走らせる。
数人の生徒が一ヶ所に集まって、昨年の綾城祭のパンフレットを手に何やら盛り上がっていた。
一年前の私も……あんな風に目をキラキラさせてたのかな……。
そう思うと、何だか妙に寂しい気持ちになった。
靴に履き替え、校門に向かって歩きながらため息がこぼれる。
薄い春の雲に夕陽が映り込んで、辺りは焼けるように真っ赤だった。
何か上手く、歯車が嚙み合わない感じ。
ずっと探している人も見つからない。
そして肝心な絵の方も上手くいってるとは言えず、ヤル気だけが空回りしている状態。
こんな夕陽を見ていると、こういった漠然とした不安のようなものがどうしても胸に湧いてきてしまう。
ボーッと考え事をしながら歩いていた私は、校門を出ようとした瞬間、どん! と誰かにぶつかってしまった。
ぐらっと体が傾きかけるのをなんとかその場で踏みとどまる。
けれど弾みで、持っていたスケッチブックを勢いよく地面に放り出してしまった。
ぶつかってしまった男子生徒がそれを拾って差し出してくれたので、あわてて頭を下げて受け取ろうとした、次の瞬間。
彼の手が視界に飛び込んできて、私は思わず息を飲んだ。
スケッチブックをつかむ、左手。
骨ばった、長くて綺麗な指。
そして手首には、特徴のある、モスグリーンにオレンジのラインが入ったベルトの腕時計────。
それは、この一年。
ずーっとずーっと探し続けて、何枚も何枚もスケッチブックに描き留めてきた……。
入学式の日に私を助けてくれた、あの人の手だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。