晴くんは私に向かって三本の指を突き立てて見せた。
おそらく、30分の意味なのだろう。
さっきとは違う嬉しいドキドキで、私の心臓が激しく脈打ち始めた。
それって……。それって、もしかして……。
確認の為に震える声で問うと、晴くんはあきらめたように肩で息をついた。
それでなくても、そんなにしつこくして完全に嫌われてしまうようなことはしたくなかった。
(でも……よかった……)
ものすごくホッとして、ものすごく嬉しくて、私は熱くなった胸をそっと押さえる。
どうして晴くんの気が変わって急に引き受けてくれる気になったのかわからなかったけど……完全に晴くんとの繫がりがなくなってしまわなくて、本当によかった。
なんだか今なら、ものすごくいい絵が描けそうな気がする……。
ニコッと彼に笑いかけると、晴くんはフイッと横を向いた。
ぶっきらぼうな物言いを聞いて、ふと疑問に思う。
……何だろう。入学式の日にさっさと立ち去ってしまったこともそうだけど、晴くんって、お礼言われたりするのが苦手なのかな。
一見愛想がないようにも感じるけど、もしかしたらこれって、一種の照れ隠しなのかもしれない……。
今まで全くわからなかった、晴くんの『人となり』みたいなものを少しかいま見れたような気がして、私は何だかすごく嬉しい気持ちになった。
口元がニヤけそうになるのを何とか堪えていると、晴くんが何かを思い出したように声を出した。
我に返った私は慌てて表情を引き締める。
もう一つって……条件追加って、こと……?
な、なんだろう……。
ドギマギしながら彼の言葉を待っていた私は、それを聞いてギョッと目をむいた。
ちょっと肌寒いとすら思っていたのに、一気に顔がカアッと熱くなってくる。
ヌ、ヌ、ヌード……!?
驚いた私は、グイッと前のめりに身を乗り出した。
元々芸術系の人だから『ヌード』って単語にあまり抵抗がないのか、ケロリとした表情で彼はそう言った。
そんな彼を見て、私は開いた口が塞がらなくなる。
冗談……なら、もっとそれっぽく言うよね?
でもこの人、全然表情が表に出ないし……真面目に言ってんのか、ちょっと冗談を言っただけなのか、全く判断できないんだけど……。
(やっぱ、晴くんてよくわかんない人だ……)
彼の言動がイマイチ理解できなくて。
すでにドアに向かって歩き始めた晴くんの背中を見つめながら、明日からの彼との付き合い方に若干の期待と不安を、私は感じたのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。