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第13話

〈第三章〉3
(ダメだなぁ……。皆に心配かけちゃってる。しっかりしないと……)
散った桜もなくなり始めた通学路を家に向かって歩きながら、私は強く唇を嚙んだ。
多分二人とも、今の私が絵に対する熱意が下がってきてること、気付いてる。
大丈夫? の言葉には、おそらく色んな意味が込められているんだろう。
二人に心配させないためにも、私が綾城に入って喜んでる両親のためにも……何より自分のためにも、早く気持ち切り替えて綾城祭の絵に集中しなきゃ……!
(……でも……)
そこでピタッと、足が止まる。
そうはいっても、やっぱりどうしても気になってしまう。
合作だったから、彼がどれだけ作品に関わったのかはわからないけど……あんな素敵な絵を描ける人なのに、どうして絵をやめてしまったんだろう。
普通科に転科したってことは、きっと美術の道に進むつもりはないんだろうし……。
そんなの当人の自由といえば自由なんだろうけど、彼のあの表情見たら多分深い事情があるんだろうな…って、察しはつく。
(さすがに、そこまでは踏み込めないよね……)
理由は気になるけど、興味半分で首突っ込むようなことじゃないし……聞いてまた、彼のあんな表情見たくないし……。
(そもそも首突っ込む以前に、また会えるかどうかすらわかんないしなぁ)
芸術コースと普通科の関係性を思い、私は止まったその場所で思わず頭を抱えてしまった。
同じ綾城の名が付いているといっても、芸術コースと普通科は全くの別物。
大きな行事以外は集会も別、授業内容はカブるはずもなく、普段から接点がまるでない。
校門こそ一つだけどすぐに道は左右に分かれてしまうし……。
なので昨日みたいに、偶然校門のところでぶつかって再会するなんて、奇跡に等しい。
(偶然。……偶然……か)
自分の思考にふと引っ掛かって、私は伏せていた頭を上げた。
考え事をしていて気付かなかったけど、いつの間にか陽は沈んで辺りは真っ暗になっていた。
(ホントに、偶然なのかな……)
自分は夢見がちではないし、わりとリアリストな方だとは思ってるけど。
入学式の日に貧血で倒れたところを助けてくれた恩人が、実は自分が美術の道を志すきっかけになった人だった……なんて。
しかもほとんど交流のない中で再会できた、となったら……。
これってもしかして、偶然じゃなくて必然なんじゃ……って。
どうしても彼に運命的なものを感じてしまうのは……仕方ないよね……。
(楠瀬 晴くん……か)
昨日から心の中で何度も呟いた名前だったけど、今はまた少し、違った感情が混ざっているような気がした。
昨日はあんな別れ方をして、どうしよう、どんな失言をしてしまったんだろう…って、後悔ばかりだった。
───でも、今は。
(もっと、彼のこと知りたい……)
こんなモヤモヤした感情のまま、終わりたくない。
憧れの絵を描いていた人、入学式の日に助けてくれた人……そのまま過去形で、終わらせてしまいたくない。
彼が抱えているもの……まだ何にもわからないし、私でどうにかできる問題だとも思わないけど、でも……。
でも、もっと……もっと、彼のことを、深く知りたい。
強く拳を握りしめ、私は顔を上げてキッと前を見据えた。
いつもはどっちかっていうと、自分から積極的に動く方ではないんだけど。
この時の私はよほど興奮していたのか、普段なら考えられないぐらいの一大決心をしたのだった。

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