プリ小説

第4話

〈第一章〉2
私、桜沢 千代は、この春高2になったばかり。
私立綾城学園という高校の、芸術コースに在籍中。
綾城は、芸術コースと普通科コースとに分かれていて、自分で言うのもなんだけど、芸術コースは県内外でもとっても有名な名門コース。
音楽科や美術科等々、芸術の道を志すトップクラスの生徒が集まってくる。
普通科とは職員校舎をはさんできっちり二つに分けられていて、制服も芸術コースはブルーのネクタイ、普通科は赤のネクタイってちゃんと分けられていて。
学祭の時ぐらいしか交流がないせいか、お互いに少し苦手意識を持っているのが何となくわかる。
そして、我が校あげての一大イベントが、秋に催される綾城祭だ。
言ってしまえばまぁ学園祭なんだけど、綾城祭は普通の高校の学園祭とは一味違う。
芸術コースのそれぞれの科の生徒たちがそれぞれの腕を披露する場所。
有名大学や、有名企業の関係者もこの日はたくさん来校して、『将来有望な人材』を探しに来るのだ。
この日で人生が決まると言ってしまっても過言ではなくて。
なので芸術コースの生徒達は、学年が上がると同時に綾城祭の準備に取りかかり始める。
高校の学園祭と言えばほとんどの人は楽しいイベントだと思ってるんだろうけど、私達芸術コースの生徒からしてみれば、秋までの長い戦いが始まったわけで、気合とプレッシャーの入り混じった複雑な感情が先立ってしまうのが実情だった。
(今年は何描くかなぁ……)
真面目に絵の構想に取りかかり始めた芽衣と佐々木から、私は自分の真っ白なスケッチブックにそっと目線を落とした。
パラパラ…と過去の絵をさかのぼると、そこには何枚にも渡ってある人の『手の絵』が描かれていた。
芸術コースの男子生徒、としかわかっていない、ずっと探し続けている人の手の絵。
(もう……見つけらんないのかなぁ……)
それらを見つめながら、私はふっと小さく息をついた。
さっき二人が言った『王子様の手』。
この手の主を私はこの一年、ずっと探し続けている────。
あれは、ちょうど一年前。
目を閉じて思い出そうとしても、少しずつ薄れていく思い出。
入学式当日。窓の向こうでハラハラと桜が舞うのを、初めて踏み入れた校舎から眺めながら、私の胸は期待と希望ではちきれそうだった。
いよいよ、あの綾城美術科での学生生活が始まる───。
そう思うと、前日の夜はほとんど眠れなくて、朝食ものどを通らなくて。
それが災いしたのかどうかはわからなかったけど、入学式の途中から私は少し胸がムカムカするのを感じていた。
何とか式を乗り切り、いざ教室へ向かおうと階段を上っている最中、それはますます激しくなってきた。
キーンと響く耳鳴りの音、サーッと血の気が引いていく感覚。
あ、ヤバい、と思った次の瞬間、私の意識がふっと遠のいた。
かすんでいく意識の中で、誰かがガシッと私の腕をつかんでくれたのがわかったけど。
その人の顔も確認できないまま、私はそこで意識を手放してしまった。

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