プリ小説

第12話

〈第三章〉2
楠瀬 晴。
パンフレットに載っていたその名前を見て、全身にざっと鳥肌が立った。
昨日名前を聞いた時は、勝手に『春くん』って脳内変換してしまってたけど……間違いない。
まさか彼が、あの絵の作者の一人だったなんて──…。
(……噓でしょ!? こんな……こんな偶然ってあるの!?)
パンフレットを片手に、私はヘナヘナとその場にへたりこんでしまった。
入学式に助けてくれた人が、憧れのあの絵を描いた人と同一人物だった。
そんな、漫画みたいな偶然って、起こりうるわけ……!?
小林芽衣
小林芽衣
ちょっと千代、どうしたの? 大丈夫?
ポンと肩を叩かれて、私はビクッと体を揺らせた。
テンパりすぎて一瞬自分が何処にいるのかもわからなかったけど、芽衣の声でゆっくりと現実に引き戻される。
のろのろと顔を上げると、心配そうに私を見つめる芽衣の瞳とぶつかった。
小林芽衣
小林芽衣
顔色良くないよ? 立てる?
桜沢千代
桜沢千代
……うん。……大丈夫
小林芽衣
小林芽衣
今日はもう帰ったら?
桜沢千代
桜沢千代
……ん。……でも……
差し出された芽衣の手に摑まって立ち上がりながら、私は無意識に教室内に目を走らせた。
様子をうかがうようにこちらを見ている佐々木以外の生徒は、私達なんかに構うことなく、それぞれの作業に集中している。
それを見ただけで、私は突き上げるような焦りに襲われていた。
この中にはきっと……今の私みたいにふわふわした気持ちの生徒なんか一人もいない。
このままだとどんどん皆に置いて行かれちゃう……。
(でも……)
頭ではわかっていても、さすがに今日は何も手につきそうになかった。
キャンバスに向かったって……きっと彼のことを考えてしまう。
真面目に取り組まないくせにここにいる方が、よっぽど周りに失礼だ……。
そう思った私は、とりあえず今日はこのまま帰っていったん頭を冷やそう、と思った。
桜沢千代
桜沢千代
やっぱり……今日は帰るね
これ以上心配させちゃダメだ、と思い、支えてくれていた手をそっと放しながら、私は芽衣に微笑みかけた。
それでもあまり上手く笑えていなかったのか、芽衣は私を見てあやふやな笑みを返してきた。

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