プリ小説

第14話

〈第三章〉4
翌日の放課後、帰りのあいさつが終わるやいなや、私は教室を飛び出した。
いつも行く美術室とは反対方向の、職員校舎へ向かって駆け出す。
綾城の校舎はコの字形になっていて、芸術コースと普通科の校舎は向かい合うようにして立っているのだけど、お互いの校舎を行き来するには真ん中の職員校舎を通らなくてはならない。
なのでよっぽどの用事がなければ訪れることのない場所で、実際私も普通科の校舎へは足を踏み入れたことはなかった。
(うー、ヤバい。緊張してきた……)
昨日一大決心をした勢いのまま教室を飛び出したけど……さすがに職員校舎の半ばまで来たところで、私の足のスピードも徐々に落ち始めていた。
私が来たことがあるのはここまで。
ここから先は、全くの未知の世界だ。
(普通科か……)
職員校舎の終わりまで来て一度足を止め、私はふぅっと息を吐き出した。
普通科には知り合いもいないし、生徒と声を交わしたのも、晴くんを除けばたったの一度だけ。
昨年の綾城祭で模擬店の焼きそばを買った時に、店番をしていた子と注文のやり取りをした時だけだ。
それ以外は登下校の道のりで一緒になるぐらいだけど、ハッキリ言って私、普通科の生徒が少し……苦手だ。
登下校時でも綾城祭でも思い知らされるけど、普通科はとにかくカップル率が高い。
もちろん年頃なので芸術コースにだってカップルがいることにはいる。
けれど中途半端に子供なので、お互いを高めあって認め合って付き合っていけるカップルはごくわずかで、選択科目と恋愛を両立できずに別れてしまうパターンも多い。
その点普通科の生徒はそういうしがらみが一切なく、本当に心から青春を謳歌してるように見えて、うらやましい半分でどうしても苦手意識が働いてしまうのだ。
(えーい、悩んでてもしょうがない! 行け、千代!)
気後れする心を何とか奮い立たせ、私は思い切って普通科の校舎に向けて一歩を踏み出した。
前もって生徒名簿で調べたところによると、晴くんのクラスは2年3組。
場所も迷わないようにと頭に叩き込んできたから、あとは晴くんが帰ってしまう前に会えるかどうかが問題だ。
「へー、芸術コースの子だ。珍しいね」
下校時刻のため生徒がごった返す廊下を歩いていると、時折そんな声が耳に飛び込んできた。
まずほとんどの生徒が下駄箱へ向かう中、その波に逆らって歩いているだけでも目立っているのに、見慣れないブルーのネクタイの生徒がやはり珍しいのか、チラチラと向けられる視線が肌に突き刺さってくる。
(ヤバい……。帰りたい……)
緊張と怖さとで心が折れそうになった、その時。
知らない顔ばかりの中で、ただ一人見覚えのある人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

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