プリ小説

第15話

〈第三章〉5
私は息を止め、思わずその場で立ち止まる。
焦げ茶色の髪に、焦げ茶色の瞳。どこかけだるげな表情。
間違いない……、昨日校門の前で再会した、彼だ……!
(……晴くん……)
迷子になった時に母親を見つけた瞬間みたいに、晴くんの顔を見た途端に妙にホッとしてしまって。
何故だかグッと、目頭が熱くなった。
晴くんはゆっくりとした足取りで歩いていたけれど、私との距離が1メートルぐらいになったところで、ふっとこちらに目を向けた。
目が合った瞬間、びっくりしたように目を見開き、足を止める。
「…………」
ほんの一瞬無言で見つめ合った後、彼はフイと私から目を逸らし、再び足を動かし始めた。
そのまま何も言わず私の横を通り過ぎようとしたので、私は慌てて彼の袖口をつかんだ。
桜沢千代
桜沢千代
ま……待って!
勢いよく袖を引っ張ったせいか、晴くんはガクン、と体をつんのめらせた。
弾みでこちらを振り返り、目を丸くして私の顔を見下ろす。
楠瀬 晴
楠瀬 晴
───何だよ
少し非難するように、彼の声は低く鋭かった。
ちょっと威圧されて、私はパッと彼から手を放す。
桜沢千代
桜沢千代
あ、あの……、ちょっと、話があるんだけど……
楠瀬 晴
楠瀬 晴
話?
震える声で言うと、晴くんは小さく眉をひそめた。
私はコクコクと無言でうなずく。
楠瀬 晴
楠瀬 晴
なんだよ、話って……
晴くんはこちらに体を向き直らせながら、ふとそこで言葉を止めた。
そうして軽く辺りを見渡す。
緊張で視野がせまくなっていて全く周りが見えていなかった私は、そこで初めて周囲の注目を集めていることに気が付いた。
「え、マジで告白?」
「うそ、芸術コースの子が?」
そんな面白がっているような声がチラホラ聞こえてきて、私の体がカーッと熱くほてりだした。
晴くんは前髪を搔き上げながらハァッとため息をつき、直後私に向かって小さく手招きした。
楠瀬 晴
楠瀬 晴
来て
そのまま返事も聞かずに、クルッと方向転換する。
私は足に力を入れ、慌てて彼の後を追った。
どこに行くんだろう、と思っていると、晴くんは振り返りもせずにスタスタと階段を上り始めた。
屋上に行くんだな、と何となく察する。
(なんか悪いことしちゃったな……)
ふしぎと怒っているように感じる彼の背中を見つめながら、私は少し彼に申し訳なく思った。
四階まで上り切ると屋上へ通じる大きな鉄のドアがあり、晴くんはそれを体全体で押すようにして開けた。
ヒヤリと冷たい風が吹き込み、そこで初めて晴くんは私を振り返った。
楠瀬 晴
楠瀬 晴
何、話って
屋上へ出て向かい合ってすぐ、晴くんは警戒するような声でそう聞いてきた。
一度収まりかけていた緊張に再び襲われて、私はゴクリと息を飲む。
落ち着け……落ち着け。
昨日家に帰ってから、死ぬ気で考えた最善策。
晴くんとの繫がりを持てて、なおかつ美術活動にも支障をきたさない、唯一の方法。
桜沢千代
桜沢千代
楠瀬 晴くん! お願いがあります!
ペコッと頭を下げながら大きな声を出すと、顔は見えないけど晴くんが軽く身じろぎする気配がした。
徐々に徐々に、心臓の音が大きくなってくる。
晴くんが何も言わないので、私は窺うようにそろりと顔を上げた。
桜沢千代
桜沢千代
あ、あの……
楠瀬 晴
楠瀬 晴
…………
桜沢千代
桜沢千代
綾城祭に展示する、絵のモデルになってもらえないでしょうか……!?

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角川ビーンズ文庫
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【角川ビーンズ文庫は、毎月1日発売!】 角川ビーンズ文庫は2001年に創刊、今年で17周年を迎える小説文庫レーベルです。異世界ファンタジー、学園小説、恋愛、ミステリなど、ジャンルにとらわれることなく、ティーンからの女子向けエンタテイメント小説を刊行しています。
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