ーーー美苑ーーー
担任に公欠届を出しに行って教室に戻ってきたら美月が立っていた。部活どうしたんだろ?
驚いた顔でこっちを見た美月。なんかおかしい
木兎と何かがあったのは容易に想像できるが、おそらく勝手にキレて逃げてきたんだろうな。
図星か。
仕方なく木葉に美月が具合悪くて部活休むことを伝えた。
自転車に乗って2人で家に帰る。
美月は今日の朝練終わりの話をした。いや、木兎はきっと無意識なだけなんだろうなと思うけど、言わない。確信があるわけじゃないし…
姉の美月は私よりもずっと自由だ。
元ピアニストの母の血を色濃く受け継いだのは私で、初めは2人で受けていたレッスンも、階級差が出てきて別になった。
その時、美月はピアノ飽きたと言って、憤る母に目もくれずピアノをやめた。それからは母が死ぬ気で私をピアニストにするべくレッスンを始めた。
好きで始めたピアノもだんだんと重りになってきて、それでも私までもが美月のように自由奔放になれば母の怒りは収まらないだろう。
続ける道しか目の前には見えなかった。
それからはただ一心にピアノを弾いた。有名なコンクールで入賞して、世界規模の大会にも出るまでの実力になった。
姉は、そんな私をみても何も思わない。
と、なんの気もなくいつも言ってくる。
天才ではなく秀才だと、
わかってくれる人は周りにはいない。良いDNAを受け継いだんだね。と言われ、私の努力なんか見向きもされない。
姉は、私の欲しいものをなんでも手に入れていく
高校へ入学する時、母に一度だけピアノをやめたいと言ったことがあった。
その時に帰ってきた言葉は
(母)「美苑まで私を裏切るの?」
だった。
本当は美月と同じでバレーボールが大好きだった。美月が中学からプレイヤーとして始めたバレーボールをやめて高校でマネージャーに入った時、一緒にやりたいと思って美月に説得を頼んだ。
でも、
無神経で能天気な姉。嫌いじゃないけどこの時ばかりはイラっときた。
姉は、私の欲しいものをなんでも手に入れていく
木兎だって…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!