第38話

12年前の満月
1,368
2021/06/28 15:00
夜空に浮かぶ満月を縁側で眺めるあなた



夜風が心地よくそよぐ季節になった










満月の夜に縁側で月を眺めるようになったのは約12年前の事



幕府からの命令で江戸へと向かうことになった日の夜



大阪を旅立つ最後に見た月も満月だった
















今日はやけに冷えるようでカンカン照りだった昼間とは見違えるようだった



ひとしきり月を眺めるとおもむろに立ち上がり



部屋から羽織を持ち出し屋敷の玄関を出る



土方
「おい、こんな夜にどこに行く」



『ちぃと散歩行ってくるわ』



土方
「そうか、気をつけろよ」



『そんなガキやないんやで母ちゃんみたいな事言わんでよ』



土方
「誰が母ちゃんだ」



『んじゃすぐ帰る』



土方
「おう」



屯所の門を潜り人影の無い道を歩く



明るい月光のおかげで足元までも明るく照らされていた







すぐに帰るとは言ったがかなり離れた所まで来てしまっていた



ザザッ



『なんの用や…』



あなたの背後に立つ人影



「貴様は摂津の鬼神 緒方あなたで在られるな」



『ざっと10人…
そうやって言うたらどうするん?』



「俺たちに着いてきてもらおう」



『あんたら…小太ちゃんの流しもんか?』



「桂などの流しものではない」



『じゃぁ晋ちゃんか…』

『うちあの日から会うとらんのに怖いわ〜』



「貴様、真選組などという幕府の犬に住み着いていると聞く
なんのつもりだ
貴様も幕府の犬に成り果てたか」



『えぇ?うちがいつ幕府の犬になったって?笑わせんといてよ〜』



そう言って腹を抱えるあなたに刀を向ける男達



『うっわぁ…こっわ
女子おなご1人に男が寄って集ってなんのつもりや?』



「貴様が女子おなごだと?
ただのサイコパスじゃないか」



『酷いなあんたらそんな事言うてたらモテへんで?w
まあその言葉有難く頂戴しとくわ』



そう言って袖に隠し持った2本の短刀を取り出した



「貴様!やはり…!」



『そうや、うちが摂津の鬼神の片割れ 緒方あなたや』



羽織を脱ぎながら鞘と鍔を縛られた紐を解く



『この華英ちゃんで殺るんは久しぶりやで手加減してや?』




「何をぉ!」



そう言って斬りかかってくる男達



それに反応し踏み込むあなた



次の瞬間男達の首から血が吹き出しバタバタと倒れ込む



『手応え無いなぁ…』



「あ…ぅ…」



残った1人が腰を抜かし尻を引き摺りながら後ずさりをする



『あ?なんやぁ?
あっは☆
その顔大好物なんやぁ』



「こ…この…サイコパスがっ…」



『ありがとうなぁ』

『あんたはどう死にたい?』

『うちが好きなんはじわじわと死んでくやつやけど
得意なんはこいつらみたいに首掻っ切ってすぐに死ぬやつ』

『どっちがええ?』



「い…いや…ぁ」



『質問に答えろや…』



ザシュッ



男の首から勢いよく吹き出す赤い液体



その男の袖をちぎり取り近くに生えた雑草を使い血で伝言を残す



『よし…
うっわぁ…やっぱりこれは飛ぶよなぁ…』



着物にベッタリとつく返り血



生憎羽織で隠れる所についていたためそばに置いた羽織をはおり刀を鞘に納める



『臭ないよな…?』



近くの川で顔と袖についた返り血を洗い流す



『遅なってしもた…』



____________________



プリ小説オーディオドラマ