第10話

#10
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2018/09/27 21:54
でもだめなんだ、これは。

持っていちゃだめなんだよ、じんたん。

じんたんは顔だけ俺の方に向けて、ちらりとこちらを見た。

その目は熱を孕んでいて、俺の心を掴むには十分だった。


「あ、やっとこっち向いてくれたね」


必死に、動揺を悟られないように笑顔をつくる。



「テオくん…その…抱きしめ…ないの?」


震えた声でそう尋ねるじんたん。

胸が、締め付けられた。


「…!じんたん…」


頼むから、そんな目で俺を見つめないで。

これ以上、俺のことを…。

だめだ、相手のペースにのまれるな。


「へんな気、起きちゃったの?」


ヘラっと笑みを浮かべて、茶化すようにじんたんにそう言った。

じんたんは、顔を更に赤くして、俺から目を逸らす。

俺は、もう既に確信していた。

じんたんの気持ちも、自分の気持ちも。


「俺はじんたんが嫌がることはしないよ」


これは、本当のこと。


「ていうか俺たちさ、友達でしょ」

「…!」


それを言った瞬間、じんたんは傷ついたような顔をする。


「じんたんは友達だから、俺はそういう意味でじんたんのこと、抱きしめたりはしない」


嘘だ。

そんなこと、微塵も思っていないくせに。

でもこれは、お互いのために。

お互いが、幸せになるために。

この先、じんたんが心から幸せになりたいと、したい思える人にきっと出会うはずだから、俺がじんたんの幸せを、邪魔してはいけないのだ。

それは、俺にも言えること。


「だけどさ、」


だけど、だけど、


もしも、じんたんが心から幸せになりたいと思える相手が、俺だったら。

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