それから社長室を出て、無言で後をついてくるユンギを部屋まで案内した。
さっきまでの威勢は何処にいったのやら、大人しく私について歩くユンギに、他にもお風呂場や朝食、夕食会場の場所を教えてまわった。
部屋に備え付けられているベッドに腰を下ろしたユンギが私にそう尋ねる。
それに私の方こそ逆に聞きたいくらいだ。
何故、パパはまだ高校生のユンギを優秀だと言って選んだのか。
息を吐く用に返ってきた答えが予想を遥かに上回って驚いた。
何故なら、射撃手は国内で選抜された10名までと決まっているから。
人を殺したって言うのに、ユンギの表情は至って平然で。色の無い漆黒の瞳を据わせて、淡々と話をするこの男はかなり冷酷だ。
″金が必要″
そんな身勝手な理由だけで人の命を殺められるなんて、私には到底理解出来なかった。
これ以上一緒にいると腹が立って仕方ないからさっさと自分の部屋に戻ろうとベッドに背を向けたその瞬間。
低く掠れたその声で背後から名前を呼ばれて心臓がドクンと飛び跳ねた。
だって、今まで私の下の名前で呼ぶ人はパパとママ以外いなかったから。
だから余計に変な緊張感を感じた。
あんな最低最悪な色白男に不意に名前を呼ばれて内心ドキッとしたなんて…絶対認めない!
私はさっさと明日の支度を済ませてふかふかのベッドに潜り込んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。