その晩、リマちゃんに電話をしたらリマちゃんはすごく喜んでくれた。
言われたけど、付き合おうとかそういうのではなかったんだよね。
その言葉を聞いて、私はしばらく何も言えなかった。
意味がわからないとかじゃなくって
その時のマユカが違うふうに見えて
本当に思ってる事なのか、不安になっちゃって。
素直な感情は『嬉しい』なんだけど
その好きってのが私と同じなのか、ものすごく不安で。
いや、その前にキスされてるから説得力はあるんだけど。
好きな人にそんなに好きって言われても困る。
私だって好きだから。
当然忘れられるわけもない。
その言葉もまたどう返せばいいのかわからなくて
私は一言だけ言った。
マユカははっとして私を見た。
その目線は、私から見ると本気のものだった。
誤魔化して笑うマユカも、さっきと全然違う。
そのマユカは、私が言ったことを本気にしていないような
どこか諦めた雰囲気をまとっていた。
そう突然話し始めたマユカ。
マユカが自分で、過去のことを話してくれるなんて初めてのこと。
その口調は驚くほどに穏やかだった。
辛い過去のはずなのに。
でも、その過去をマユカは
未来への希望に変えてるんだって思った。
やっぱり、軽く言ってしまった私の『好き』には
かなり不信感を抱かれてるみたい。
そしてマユカの歩んできた過去に、改めて胸が傷んだ。
私が君の過去の話を知ってるなんて
君は思ってもいないんだろうけど
君が苦しい時に、寄り添える人でありたい。
なんてことを私が言えるはずもなくて。
代わりに、数分前よりさらに愛おしくなったマユカに
もう一度唇を重ねてあげる。
自分から来る時よりも照れたマユカの表情は
これまたすごく綺麗で、愛おしくて、麗しくて
ふつふつと不思議な感情が湧き上がってくるのを感じて
さっきまであんなにテンパってたのに
私の方が離れたくなくなって。
.........これが独占欲、なんだな。
目の前の子は、少し荒い息をして私から離れた。
なぜか荷物を持ってそそくさと逃げようとするマユカ。
意地悪したくなって、私も荷物を持った。
ふわっといい香りのするマユカについて行く。
機嫌を損ねたのか何かを考えてるのか、学校を出ても
マユカは何も言わずにずんずん歩く。
ちょっとツンツンした態度がまた可愛い。
そうは言いながらも、私たちはお互いの電車が来て、すんなり別れた。
というふうになったんだけど。
リマちゃんは電話越しに、ちょっと笑いながら言った。
キスフレ...........でも、今の私はキスフレ程度がちょうど良いのかもしれない。
今の私はマユカのことを全然知れてないし
リクのこともあるし.........
リマちゃんにそう言われて、また目星がつかなくなる。
私がそう言った時だった。
リマちゃんとの通話画面の上に、ひとつの通知が来た。
『なぁ、あなた』
『りくに言うことあるんちゃう?』
紛れもなくそれは、リクからのLINEだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!