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第1話

赤いシャー芯 izw
4,111
2019/11/30 14:06


きゅっ、きゅっ。赤いペン、いや、シャーペンが忙しなく動くその席には、校正のプロ、あなたがいる。校正には他もいるけどあなたの校正が良いとみんな言う。本人はあまりライターとしては活動していない。
彼女は東京大学文学部という実際の大学生をしながら、QuizKnockの記事に目を通してはその担当者に話しかけ、「もっと表現良くできる」だの言って立ち去る、いわば超絶仕事できるちゃん。ところが、仕事はできるが、鈍感。仕事においては敏感なくせに、恋愛に対しては超絶鈍感。他の周りが好意を示しても、全くわからないよう。小説読むのが好きなのに。
『伊沢さん、大丈夫ですか?』
と、顔をいきなり覗き込んできた。びっくりして、
「え、何が?」
としか返せなかった。
『ぼけーっとしてたので』
「あー何でもない。」
『なら良かったです。』
と言って、川上の元へ行った。我ながら素っ気無い対応をしてしまったなあ、と後悔。
『川上さん、校正しました。』
と、笑顔で川上と話していた。
「そっか。ありがとう。」
『はい。』
そういえば、最近あなたのあんな笑顔見ていないな。しかも俺だけ対応が違う気がする。どうして、?
『伊沢さん、お疲れ気味ですか?』
「おおええお」
いきなり聞かれたせいで、訳の分からない言葉が出てきた。
『やはり、お疲れ気味なようで。』
と、自分の席に座って頬杖ついて、
『皆さんが帰られたら、一息つきません?』
こっちを見ずに言った。
『お菓子買ってきたんです』
と言って、また彼女は机に向かって赤いペンを動かし続けた。



「「お疲れ様です」」
という声がして、残りはあなたと俺だけ。
『ふぅぅぅー、やっとです。』
と、誰もいなくなったことを喜んでいるあなた。
「校正は終わったの?」
『とっくのとおに終わってます』
と、超真顔で言う。
俺のために残ってくれてたのかよ、てか早く帰りなよ。今日泊まる必要も無いんだろ、とか、考えてた。
『いや、実は、みんなに帰ってもらうように言ってたんですよ?』
「は?え?」
えーそんな反応しないでくださいよーって、ちょっと高めの紅茶をティーカップに注いでいた。
「何でそんなことを?」
『私が伊沢さんのことみてないわけ無いじゃないですか、?』
と、顔をいつものシャー芯のように赤らめる彼女を見たのは俺だけなのかもしれない、いや、俺しかいなかった。

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