第4話

かつての応援 sgi
2,469
2019/12/19 13:36


たまには過去を振り返りたくもなる。
『駿貴』
とハッキリ呼ぶあの声が聞きたくなるのである。



____

俺が高校で野球部だったとき、彼女は吹奏楽部だった。

出会いは高校1年のクラス分けだった。名前順で並んだときに真後ろにいた、須貝の次の鈴木あなたさん。1番初めに話しかけた女子だった。
「鈴木さん」
『須貝くん』
と呼び合っていた仲がいきなり変わったのは甲子園の応援練習のときだった。
あなたは吹奏楽部でトロンボーンを吹いていて、とても格好よかったのが印象に残っている。普段のクラスの様子とは全く違って、教室では静かって言うかクール系なのに、トロンボーンを持った瞬間顔が変わった。いつも以上にキリリとした顔をして、スライドを無心に動かしていた。もちろん、演奏は上手くて、思わず応援を忘れて、鋭いような温かみのあるような音に、そんな姿を見て彼女に惚れた。格好いいなって思った、そんな言い訳であなたと沢山話すようになった。

高校最後の試合を目の前に、あなたがまたトロンボーンをめちゃめちゃ吹く時期がやってきた。教室の窓ガラスが開いているせいか良く聞こえる気がする。俺が打席に立つときに吹いてくれる曲はトロンボーンがメインで入っている曲にした。そのためにYouTubeでめちゃめちゃ探したことか。あなたのために選んだと言っても過言ではなかった。
楽譜が配られたであろう次の日に、
『駿貴がこんな曲選ぶなんて意外。』
と一言余計なことを言うから、
「あなたの吹くトロンボーンの音色が聴きたい」
と、余計なことを言ってしまった。
『そう、ありがとうね。練習頑張れそう。』
と、さらーっと流されてしまった。ちょっと恥ずかしくなったので、
「口使いすぎて口痛めるなよ」
とぶち込んだら、
『バット振りすぎて腕痛めるんじゃないよ?』
「おう」




_____

次の日の試合には負けてしまったけど、とても楽しかった青春の思い出。


戻らない、青春。
あなたに会いたい。

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