If story EP4
それからショウタ君は部活には来なくなった。
一応学校には来てたし連絡先も持っていたので何回か連絡はとってみたものの、その件に関して本人が何か言うことは決してなかった。
そして私も…
『俺は悲しいぞ〜!一緒に部活しようぜ!!!』
『ヒカリ、1年私1人だけですごい緊張するんだから!早く部活こ〜い。』
『ヒカリちゃん最近何かあったの?』
私も今、同じ状況に立ちつつある。
私はそのメッセージに目も向けずに歩き出した。
…当然部室を避けて。
部室を避けると遠回りになって少し辛い。
しばらくして、自転車に乗って、私は…
「あっ。」
「あっ…。」
まさかのタイミングでショウタ君に会ってしまった。
「やあヒカリ…。じゃあまた…。」
「待って!!!」
私は自転車に乗って帰ろうとするショウタ君を必死に呼び止めた。ショウタ君は少し驚いて私の方を見る。
「何かな?」
「何も部活辞めるってことは無いんじゃない?ほら、なんて言うかさ…大会は出さなくてもいいじゃない。文を書くだけなら…」
「できっこないよ。皆そう思って文を作ってないじゃないか。」
私の必死の説得もショウタ君は軽くあしらっただけだった。
このままで済ませてはいけないのは分かってる。
でも…でも…
「ヒカリは好きにすればいいさ。別に僕はヒカリがそう決めたんなら邪魔はしないし、むしろヒカリなら応援してやっても…」
ここで私はようやく気がついた。
ショウタ君を止めなければならない、ショウタ君を大会に出さないとまずいと思うのは私のエゴでしか無かったということに。
私はショウタ君の…いわば魅力に縋っていただけだった。
「じゃあ、そういう事で。だからヒカリは部活には出た方がいいよ。みんな心配してるから。それじゃあ…」
ふと、私はショウタ君の腕をつかんだ。
「離してくれないか。僕は帰りたいんだ。」
「離さない。」
私が思っていること…否、さっきまで思っていたことと今の行動は一致していない。
ただ私が思うに、私含め人間は貪欲でありその本性を隠すなりわきまえるなりしていつもやり過ごしてるだけだ。だったら…
ちょっとくらい本性見せたって…別にいいよね。
「ショウタ君のバカ!私がそんな言葉だけで部活に戻れるわけないじゃない!!!」
「それは…。」
「私はショウタ君がいたからこの部活が好きになれたのに、どうしてそんな言葉が平気で出てくるの!?」
「お前に関係ないだろ…。」
「関係あるよ!ショウタ君が辞めるなら私も辞める。ショウタ君のいない部活で小説なんか書けっこない!」
「じゃあ好きにしろよ!!!」
涙目になってしまった私をよそ目にショウタ君は今度こそ本当に帰ってしまった。
後悔。
悲しみ。
寂しさ。
貪欲になるべき場所は、もっと肝心のときだったのかもしれない。
私は馬鹿でしかなかった。
「うう…。」
私は堪えきれず泣いてしまった。周りに誰もいないのが幸い…
「ヒカリ?」
でもなかった。背後にいたのは部活中だったはずのユメミ。
「ユメミ…部活はどうしたの…?」
「そんなこと気にしてる場合!?一体どうしたのヒカリ!なんで泣いてるの!」
私の強がりは無駄だったらしい。でもごめんねユメミ。なぜ私が泣いているか、その訳をユメミに言う訳にはいかないよ…。
「分かった。無理に言わなくてもいいよ。」
「え?」
ユメミから意外な言葉が飛び出した。私は少し安心する。
「言わなくていいから、だから泣き止んでよ。こっちまで辛くなるじゃん。」
「ユメミ…。」
「ああほら、これあげるからさ!」
ユメミはポケットからクッキーを取り出すと私の手に握らせた。
「え…?」
「これ食べて…元気出しなよ…。ホントは私のおやつにと思って買ったけどさ…。」
ユメミ、バカみたい。
でも今私は、それに助けられている。
「ユメミ、こんなんで私が喜ぶと思ってる?」
「思ってなきゃ出さないでしょ!元は私のおやつなんだからさ…。」
「ははっ、ありがとう。」
「泣き止んだみたいだね。とりあえず良かった。」
「ねえユメミ、これ半分ずつで食べよう。」
「うん。」
私は外でクッキーを半分に折ってユメミと一緒に食べた。なんだか久々にほっこりできた気分だ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。