と、こんな感じで"If story"の第1話を読み終えた。俺は再びサイトを閉じ、スマホをしまう。
人混みをかき分け、俺は電車から降りる。
そして駅に直結している駐輪場から自転車を取り出してそのまま家に帰った。
晩御飯まで時間がある、と母さんに言われて自室で休憩していた俺は制服から再びスマホを取りだした。
そしてブラウザを開き、再びあのサイト、Heavennovelへ…
ブラウザからサイトに接続できない旨の警告文が流れる。
さっきまでは普通に見れたのに、変だ…。
数分おきに何度かやったが、結果は同じだった。
俺が来た瞬間に使えなくなるというのも悲しい話だが、致し方ない。
ただ不思議なことにもっと悲しいのは、あの小説そのものが見られなくなることだ。
何故だろう。どこに惹かれたかと聞かれて簡単に答えられる訳では無いが俺があの小説、"If story"を本能的に求めていることだけは理解することが出来た。
そうして俺は少し物足りない気持ちのまま寝床に着いたのである…。
5/5
あの不思議なサイトで奇妙な体験をしてから1週間、この日俺は制服を着て学校に向かっていた。
察しのいい人ならお分かりであろう、休日登校だ。
しかし授業があるとかそんなのでは無い。
強いて言うなら部活…いやそれも違う。
澄香に無理やり呼び出されたのである。
学校に着いた俺を澄香は待ち構えていた。
何が「遅い」だよ…。
まあ、やる気がなくてわざとやったけど。
そのためだけにわざわざ学校に呼び寄せたのか。
出さなかった俺も悪いがこの女、恐るべし。仕方なく俺は部室に向かうことにした。
俺はリュックサックの中から持ってきたノートを渡す。
…へ?
もう務めは果たしたんだ。返してくれたって…。
やはりこの女、恐るべし。
しばらく澄香は俺が書いた作品を読みこんだ。
そして…
心做しか俺の作品について語る澄香の顔が寂しそうに見えた。
その表情に少し戸惑いつつも、俺はノートを澄香から改めて受け取り、教室の外へと…
全く、人使いの荒いやつめ。
学校を出るために階段をおりている最中、俺は再び思い出してしまった。"Heavennovel"、そして"If story"の存在を。
澄香に"悪くない"と言わしめたあの小説のオマージュをくれたアレををもう一度見たい。ダメ元かもしれないが…。
俺は半ば諦め気味にスマホのブラウザを開き、Heavennovelに…
入れた。
俺は必死に"If story"を探す。
また、あの小説に合える。
しかも今度は、続編付きで。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。