いつも見慣れているはずの検索結果に表示された、見慣れないサイト名。トップサイトのサービスが変わったのかとも思ったがそれも違う。普段トップにいるはずのサイトは、2番目にあった。
が、そのサイト、Heavennovelには俺を惹きつける何かがあった。
一応言っておくが、俺は冒険心が少ない方だ。少なくともレストランで1度これと決めてしまったら、もう次以降そのメニュー以外は頼まないレベルには。
だがHeavennovelだけは違った。
いつもの俺なら無視していつも使ってるサイトに入るのに…。
そもそもHeavennovelに誰がどんな小説を投稿しているのかも知った話ではないのに…。
スマホの画面をタップして、そのサイトに入る。
ブラウザは少しだけ読み込んで、そのサイトを表示した。
表示されたサイト、ヘブンノベルには入ってすぐに大きくこう書いてあった。
「あなたの遺すべき物語、残しませんか?」
正直言って違和感が凄い。
ただ、違和感はそれだけじゃなかった。
下にスクロールする度にその違和感はどんどん増してゆく。
サイトの項目自体は通常の小説サイトと何ら変わりないが、単純に入りづらい。
これまでも敷居が高い小説サイトならいくつか見てきたし、その度に入りづらさを感じてはいたのだが、今回は違う。
まるで、穏やかに止められているような…
体育科で生徒指導係の時任先生に呼ばれて、俺はふっと我に返る。時刻は気がつけば午後6時を過ぎていた。この学校ではこの時期、文化系クラブの人間は午後6時完全下校という決まりがあったので、俺は仕方なくスマホを閉じ、言われるがままに校舎を後にした。
帰りの電車の中で俺はスマホを開く。
理由はもちろん、さっきのサイト、ヘブンノベルに入るためだ。
本当は家に帰って続きを見ようかと思っていたが、何故か気になってしょうがない。
あんなに重みを感じたのに…好奇心というのは強いな。
さっきの画面。さっきの雰囲気。全く変わらなかった。
1つ、俺はこの重い雰囲気の中で気になる小説のタイトルを見つけた。
タイトルは…
"If story"。
直訳すれば"もしもの話"。なんてことないタイトルだ。
…が、俺はこのサイトに投稿されている数ある小説の中からこれを、これだけを読みたいという気持ちで溢れていた。
むしろこのサイト独特の重さを、これが打ち消してくれるという確信さえ、俺は持っていた。俺はすぐに小説を開く。
その小説、"If story"には第1話しかなかった。少しして、そこにはNEWという単語が付いていたことを理解する。
そうかそうか、新人さんか。俺と同じだな。
俺はタイトル画面をタップし、その小説を読み始めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!