慧は本当の事をすべて話してくれた
“時任晶”は本当の名前じゃない
アイツの本当の名前は“嶋田明煌(シマダアキラ)”
「!」
その名前にあたしの中で眠っていた記憶が蘇った
ピンときたみたいだな
そう。明煌は俺たちの幼馴染
小さい頃、よく遊んでたよな
でも、アイツは小さい頃から心臓に重い病気を患ってたんだ
懸命に治療したが、日本ではもう手のほどこしようがなかった
だから、海外で治療するという一か八かの賭けに出たんだ
俺たちには突然、アイツがいなくなったように感じたが
アイツは俺たちに心配をかけたくなかったらしい
っても、俺も最近知ったんだけどな
結局海外での治療も難しくなり、ついに余命宣告を受けた
明煌は残った時間を莉緒と過ごしたかったんだよ
たとえ、真実を知って恨まれたとしても
「…何で?……どうしてまた何も言わずにいなくなろうとしたの?」
「…莉緒のそんな顔を見たくなかったから」
「あたしは……すごく悲しかったんだよ?今回も、あの時も…」
「ごめん。……本当は帰ってくるかすごく迷ったんだ。もしかしたらまた莉緒を傷つけるんじゃないかって。けど、来てよかった。莉緒の笑顔を見れたから」
フルフル
「それはサンくんのおかげだよ」
“サンくん”
そう。あたしは彼の事をそう呼んでいた
太陽のように笑うという意味でサンくん
あたしは彼の笑顔を撮りたくてカメラを手にするようになったんだ
「あたしも会えてよかった。ありがとう、大切な事を教えてくれて」
“今”という時間は2度と存在しない
今ならサンくんが言っていたその言葉の意味が分かるよ
「サンくん。あたし、サンくんが好…」
言い切る前に言葉を阻まれた
「そこから先は言わないで。……心残りが出来ちゃうから」
「…っ……」
「その代わり、沢山写真とろう?慧も一緒に1枚でも多く」
「…うん」
それからあたし達は沢山の写真を撮った
残りの時間を惜しむかのように…
そして、2週間後の3月末
サンくんは静かに息を引き取った
しかし、その表情はとても穏やかだった
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。