「結局、サンくんは最後まで優しかったよね」
「おーい、莉緒!」
振り返ると慧があたしの方に駆け寄ってきていた
「明煌と話はできたのか?」
「まだ。ちょっと思い出話をしてて」
「ったく、相変わらずのんびりだな」
「ごめんって。…サンくん。あたし達ね、明日結婚式を挙げるんだ」
そう。あたしは慧と結婚する
サンくんが亡くなってから慧はずっとあたしを支えてくれた
そして1年後、ずっと好きだったと告げた
自分はサンくんの事が今でも好きだと言ったが
慧はそれでもいいと言ってくれた
あたしは慧の告白を受け入れた
けど、いつまでも中途半端な気持ちではいられない
今日、あたしはサンくんへの思いに区切りをつけるためにここに来た
「……莉緒は俺が必ず幸せにするから」
「サンくん、見守っててね」
「行こう」
「うん」
ありがとう、サンくん
本当に大好きでした
けど、それもおしまい
今日、あたしはこの思いから卒業します
あたしは慧と共に歩き出した
ヒュオッ
その時風がそっと背中を押して
耳元でサンくんが“おめでとう”と言ったような気がしたから
不意に涙がこぼれた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。