第20話

#20
150
2020/03/01 13:03
儚が加わり、私たちは早速ある森へ着いた。
ねぇ‥‥何でこんな夜にこんな薄暗い森に来るわけ?
そういえば儚には目的地を伝えてなかったな、と思い出し少し申し訳ない気持ちになる。
言ったら怒るかなぁ‥‥
月人
街で聞いた話。
月人は提灯を持って私たちの前を進んでいる。
月人
ここにケガレが出るんだってさ。なんでも透明なケガレが。
透明‥‥?
木乃葉
声だけ聞こえるらしいんだけど‥‥ケガレそのものは見えないって。
木乃葉
透明人間ならぬ透明鬼!
それドヤ顔で言わないでくれる?
木乃葉
うっ‥‥ごめん。
すると、月人が『ここら辺にしよっか』と落ちている枝を集めてそれに提灯の火を移した。
木乃葉
焚き火だぁ‥‥!
私が目を輝かせていると、月人が申し訳なさそうに私を見た。
何かあるのかな‥‥?
月人
ごめん‥‥木乃葉、女の子なのに野宿大丈夫かなって思って‥‥今更だけど。
私はその言葉を聞いて、月人って何気に紳士だよねー、とか思いながら少し笑った。
木乃葉
全然だいじょーぶですよー。
木乃葉
私、野宿したことあるし!
あの誕生日の夜のこと。
地面で寝ちゃったからあれは野宿で良いんだよね?
だからドヤ顔で言うなし‥‥‥
はぁ、と呆れたように溜息を吐く儚。
というか僕、野宿嫌なんだけど。せめて何か敷き布団みたいのない?
すると月人は、荷物の中をあさり始めた。
そして三枚の毛布を出した。
月人
敷き布団はないけど、毛布なら三枚丁度。俺と木乃葉と予備用って感じなんだけど‥‥
さすが月人、準備が良いことで。
毛布はあって当たり前なの!僕が言ってるのは敷き布団!
月人
わがまま言うなよ‥‥敷き布団はない。毛布で我慢。そもそも敷き布団なんて重くて持ってけないだろ。
そんな月人の言葉を聞いて、むぅ、と口を脹らませる儚。
兄と、弟‥‥みたいだな、なんて思いながら、私は毛布を二枚取って儚に両方とも渡した。
木乃葉
はい、これ!儚二枚使って良いよ。
‥‥え?き、君はどうすんのさ。
木乃葉
月人の毛布に潜り込む!
月人
却下。
木乃葉
えぇーっ!ケチ!月人ケチ!!
私がそう叫んでいると、儚が面白そうに笑った。
何気に、儚が笑ったところ初めて見たかもしれない。
いいよ、これ。君にもらう屈辱を受けるくらいだったら毛布一枚でも別に屁でも無いから。
そう言って毛布一枚だけを私の手から取って焚き火に寄る儚。
屈辱って‥‥、と私は少し笑って儚の隣に行った。
木乃葉
案外優しいんだね。
う、うっさい!べっ、別に君の為なんかじゃないから!
木乃葉
あはは、ソーデスカ。
あっ、何その疑わしいって目!本当だから!
月人
元気だなお前ら‥‥
私と儚の話を聞きながら苦笑する月人。
月人はともかく儚とはこれから仲良くやっていけるか心配だったけど、これなら大丈夫そう。

そういえば、月人と儚って何で知り合いなんだろう‥‥。
儚も神無月のこと知ってたし、ただの顔見知りってわけじゃなさそうだし。

少し、聞いてみようかな‥‥
木乃葉
ねぇ、月ひ
月人
静かに。
突然のことだった。
月人は持っていた水で焚き火を消して私の口を押さえる。
月人も儚も、辺りを警戒しているように見えた。

どうしたんだろう‥‥と思いながら息を潜め、辺りを見回す。
すると、後ろの方からカサッという草が擦れ合う音がした。

あ‥‥この感じ────
伏せて!!
────ケガレだ。
あっぶな‥‥間一髪。
伏せてと言われ、月人に頭を掴まれて地面スレスレまで頭を降ろした私は物音のした方に目をやる。
木乃葉
いない‥‥?
儚が攻撃に気付かなかったら、月人が私の頭を下げなかったら、私は首を斬られていた────そう予測が付くくらい辺りの木々は一定の場所でばっさり切られている。
ケガレがいたのは間違いない。

けれど、そこにはケガレどころか草木しかなかった。

儚や月人にも見えていないようで、さっきよりももっと警戒を強めているようだった。


そうか、これが‥‥‥
木乃葉
透明鬼‥‥‥

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