第3話

#3
371
2020/02/24 02:47
───────パチパチ‥‥


たき火の音が聞こえる。
木乃葉
ん‥‥‥
私は寝ていた体を起こして、辺りを見回す。


壊れた家。砕けた陶器や小物。そして、所々にある血の付いた錆びた刀。
月明かりが照らしているのは、むごい有様のものばかり。

まるで、落城の地だった。

そういえば街で噂してたっけな。
確か名前は‥‥‥
木乃葉
落城の守人‥‥‥
  
目、覚めた?
木乃葉
わあっ!?
  
そ、そんな驚くか‥‥‥?
たき火を挟んで向こうにいたのは、黒髪の青年だった。
  
‥‥‥あ、傷治しといたから。嫌だったら戻すけど。
黒髪の青年は研いでいた刀を私に向ける。
木乃葉
いいいいいや!?結構です!!
  
あはは、そうか。
黒髪の青年はいたずらっぽく笑う。

‥‥‥かっこいい。


‥‥‥‥‥‥じゃなくて。駄目だよ、私。まだこの人信じちゃ駄目。会ったばかりなんだから。



そういえば、傷を治したって言ってたけど‥‥私、ケガレに肩食べられてた気が‥‥
木乃葉
治ってる!?!?
自分の肩を見ると傷一つ無く、破れた着物に血が付いているだけだった。

他に怪我した所も、同じだ。
  
だから治したって言ったじゃん。
木乃葉
‥‥‥
木乃葉
‥‥‥‥神様?
  
何故そうなる。
木乃葉
だって全治一生くらいの怪我でしたよね!?これ!!
  
そうだな。
木乃葉
それを治したなんて、もう神様でいいよ!
  
だから何故。
木乃葉
はっ‥‥‥これはもしや夢‥‥
  
大丈夫か?お前。
黒髪の青年は、眉間にしわを寄せる。
木乃葉
失敬な‥‥
  
頭、治りきってないならもっと飲むか?鬼殺おにごろしの実。
鬼殺の実‥‥‥?
木乃葉
何その物騒な名前の実。
  
質問するのそこかよ。
木乃葉
‥‥‥鬼殺の実って何?
  
言い直さなくていい。
黒髪の青年は、私にツッコミを入れた後に《鬼殺の実》の説明を始めた。
  
鬼殺の実っていうのは文字通り、鬼‥‥つまりケガレを殺す実のこと。
果実であんなに強いケガレを殺す‥‥‥?
  
ケガレは、鬼殺の実を口に含むとやがてちる。
木乃葉
え‥‥‥ちょっと待って。私はそれを飲んだってこと?
  
あぁ
背筋が凍る。鬼殺の実を飲んだなら、やがて私も‥‥‥
木乃葉
人殺し!無防備の女の子に危険な実を飲ませるとかどんな趣味してんのよ!!
私は勢い良く立ち上がり、叫んだ。
  
どんな趣味って‥‥‥
  
そもそも鬼殺の実は人間にとって貴重な薬だ。お前に害は無い。
木乃葉
‥‥‥‥本当?
  
本当。その証拠に、傷治ってるだろ?
黒髪の青年は自分の肩を指差した。
私はそれにつられて自分の肩を見る。

‥‥‥治っている。さっき見た時と同じだ。
木乃葉
うん、ごめん。勘違いして酷いこと言った。
すると、黒髪の青年は少しだけ口角を上げた。
  
人殺しなのは合ってるけど‥‥‥まぁ、大丈夫だ。
人殺しなのは合ってる・・・・・‥‥‥?
木乃葉
それって、どういうこと‥‥‥?
  
あー、少し口を滑らせたな‥‥‥
そう言って苦笑する黒髪の青年は、どこか痛々しく見えた。
  
今のは忘れてくれ。
そんな顔されて、忘れられるわけがないじゃないか。

でも、誰しも人には言えない事一つや二つはあるのだ。ここはあまり詮索しない方が良さそう。
木乃葉
‥‥‥うん、努力はする。
すると黒髪の青年は、『ありがとう』と言いながらふっと笑った。

‥‥‥やっぱり、その笑顔はどこか痛々しく見えた。

プリ小説オーディオドラマ