ベジータはその場で少し考え込むと、あなたを姫抱きして宇宙船に戻って行った。あなたは困惑して何をしているのかとベジータに問い詰めるが、応えない。
やがて座れる場所に横にならせると、ベジータはあなたの前にしゃがみ込んで言った。
あなたが行くと言って聞かないからか、ベジータは少々ムッとした顔であなたの両方の頬を指でつねるようにして掴んだ。赤くなっているところもだ。当然あなたは痛がった。
あなたの目から僅かに涙が出ているのが見え始めたタイミングで手を離すと、あなたは顔を真っ赤にしながら頬を膨らませていた。そんなところもカワイイと思ってしまう俺がいる。
だがベジータ、ただでさえ一度あなたの頬をぶっ叩いていると言うのにそのようなことをするとは尚更許せぬ。俺のあなたを傷つけた事を後で必ず後悔させてやる。
きっと今から俺もベジータに同行することになるはずだ。あなたを置いて行きたくはないが、そうしないと話が進まないからだ。その時に隙をついてベジータを問いただすしかない。
まだ少しお怒りらしいあなたは、目の前にいるベジータの頬を両手でギイギイと引っ張ったりつねったりした。自分がされた事をそのまま仕返しているらしい。
少しばかり不貞腐れたようにそう言ったあなただが、俺は今それどころではなかった。あなたに大きな危機感を覚えていたからだ。
ベジータの頬を引っ張りながら「ホントは痛いくせに」と言っていたあなたが…恐ろしく感じた。声がまるで陽炎の様にボンヤリと、且つ若干ネットリとしていた…。
揶揄うように細められた目と、うっすらと上がった口角なんかはあなたから色気と言う色気を溢れさせていた。だが、俺はあなたの色気にだけ恐怖したのではない。
…………そんな、男に襲われること間違いなしの淫らな声と顔を、ベジータに何の躊躇いもなしに見せたことが一番恐ろしいのだ。
少なくとも言えるのは、あなたは無自覚だと言うこと。あなたは色仕掛けなんぞするような女じゃない。それに、俺がいながらベジータを誘惑するなど論外だ。そう言うつもりでないことは断言できる。
ああ、いくらなんでもあなたは異性への危機感を持っていなさ過ぎる。あなたの顔を見たベジータの返事が遅くなったこと、俺は知っているんだぞ。
あなた、お前は…そんな顔すら誰にでも見せると言うのか?これまでにも俺の知らない奴らにそんな姿を見せて来たんじゃないだろうな…??
居ても立っても居られず、横になっているあなたを覆い被さるようにして抱きしめた。驚いたあなたは、俺を見て首をかしげていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!