第8特殊消防隊を出たところで、久しぶりに夕方の
太陽に当たる感じと煩い人々の声で立ちくらみがした。
足元がおぼつかないが、早くしないとあの人たちが追いかけてきてしまうかもしれない。
そうしたら私は…今度こそあの人たちの優しさから離れられなくなる。
時間はもう夜になってしまいそうだったが、急いで足を動かした
細い路地に入ったところで、足がもつれ転んでしまった
溜まっていた疲労に更に痛みが加わり、
もう足に力が入らない
泣かないと決めていたのに
意思に反して、どんどん涙が溢れ落ちていく
ついに我慢していた言葉が口から零れた
後ろから声がして、驚いて振り返った
そこには、私のことを姫君と呼ぶ、あの、
青年が立っていた
ここは大通りからは見えにくい、細い路地の中なのに
綺麗な青い目が、まっすぐに私を映している
私を見つけ出してくれた、その美しい瞳に、彼に、
とても暖かい気持ちになった。
だけど…
言葉が詰まってしまう
人を傷つけてしまう私にはッ…
優しい言葉。
今まで触れたことのない、暖かい言葉。
目の前に差し出された手。
私は、この手をとってはいけない。
でも
一度だけでもいいから
優しくされる権利を
助けられる権利を
愛される、権利を
どうか下さい。
私は彼の手を取り、月明かりの逆光で一層際立つ
彼の蒼い目を見上げた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!