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第10話

あの日から
355
2019/12/16 13:31
「ミニョ、ガ………愛してるよ………」

掠れたヒョンウォナの声。
俺は既に声を失っていた。























あの日から3年は経ったと思う。
ヒョンウォナはもう起きてるのもやっと。
でも毎日俺に愛していると言ってくれる。
俺も言ってる。
でも俺の声は翼に吸い取られて殆ど出なくなっている。
だから、実質は伝えてる。
この間は手で大きなハート作って、
昨日だったら頬っぺに手を当てて照れた表情を演出してみた。まぁこれはガチで照れてたんだけど誤魔化した。

するとヒョンウォナはふふって笑ってくれる。

その表情はずっと変わらなくて、俺も変わらずキュンとしてしまう。



「…………ぁ……ぃ…………………」
「んー?」

少しびっくりした顔で一生懸命耳を傾けてくれる。

「……ぃ…………し…………ぇ……………る………」
「……………ありがと」

ヒョンウォナは涙ぐんだ。

俺はどうしても伝えたくて一生懸命出ない声を出していた。
もう1年も声を出す事が出来ずに喋る事も出来なかったから、俺自身もびっくりしたし、ヒョンウォナもすっごく嬉しそうでびっくりした顔をしてベッドから起き上がって手を伸ばして頭を撫でてくれた。

俺は涙を零した。

「っ、ゴホッゴホッ………ご、めん…大丈夫だから……」

ヒョンウォナは無理をしてしまい、咳をした。
あの頃に比べ細身な身体はさらに細くなってしまった。


「泣くな………俺も泣きそう………」

泣きながらそう言う。

漠然としている未来は怖くなかった。

ちょっと、切ないけど…




「嬉しいの?…………そっか」

こくこくと頷くと"俺も"って言ってずっと撫でてくれた。

「翼、大きくなったね」

そう言いながら翼も撫でてくれる。
擽ったくて身体を捻った。

「こしょばい?wごめんごめんw」

ああ。これって幸せなことなんだ。



「…………ぁ………………ぁ………r…りぃ………」

ずっとずっと伝えたかった言葉。
ずっと伝えてきたけど
本当に伝えたかった言葉。

「…………っ………がと…………」

言えた。

「………………ふふふ……………お前な…………っ…………っ………ゴホッ…っはぁ………こちらこそ………っ………」

ヒョンウォナの骨張った手が、弱々しく俺の涙を拭った。




あぁ。嫌だなあ。
漠然とした切なさが辛かった。






俺はヒョンウォナの手を自分の胸に当てて微笑んで見せた。
微笑めたかは分かんないけど。きっと伝わったはず。


「はぁっ………っ…………っ、キ、ス……っ…しよう……か……っ……」


俺はその言葉が嬉しくって大きく頷く。
するとヒョンウォナの冷えた唇が俺の唇と重なる。
しょっぱいや。


ヒョンウォナの顔が離れた。

「しょっぱいね…」

貴方は切なそうに嬉しそうに笑った。
俺も同じ事を考えていたから笑ってしまった。

「ふふ、何、同じ事思ってたんでしょ。もう俺は、寝るよ。」


ヒョンウォナは心を読んでくる。
いつもそうだった。今日もそうだ。

ヒョンウォナは元々すぐに寝る人だったけど最近は特にすぐに寝てしまう。その度に俺もヒョンウォナが見てる世界が見たくて一緒に寝る。結局俺は起きちゃうけど。


ヒョンウォナはゆっくりベッドに上がって咳を1つし、俺を誘った。

「ほら。おいで。」

迷う事無くヒョンウォナの胸に抱きついた。翼がぶつからないようにヒョンウォナと向き合って一緒に眠りに落ちた。

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