第3話

一章 二節
62
2020/05/04 05:34


 無事にパン屋にたどり着けて、パンを選んでいるとパン屋の女将さんに話しかけられた。若干、顔がひきつっている気がするのは気のせいだろうか?とりあえず、女将さんを聞いてみよう。

「翠ちゃん、ちょっと話を聞いてもらってもいいかしら?」

「なんですか?女将さん。」

「ちょっと相談にのって欲しいことがあって…少しだけ時間をもらっていいかしら?」

 女将さんの顔がひきつっているのは間違えじゃなかったみたいだ。さっきよりもさらに困ったような顔になっていた。どうせ、この後も暇だし、相談を聞いても大丈夫だろう。

「大丈夫ですよ、女将さん。」

「ありがとうね、翠ちゃん。お礼に好きなパンと珈琲を一杯サービスするわ。」

「いいんですか?やったぁ!」

 流石女将さん、太っ腹だ。

「それじゃあ、私は奥のカフェスペースで待ってるからパンを選び終わったら来てちょうだい。」

「わかりました」

 そういうと、女将さんは一回レジの方へ戻っていった。私も、食べたいパンを選んでから(ドーナツとかサンドウィッチとか、バケットとかetc…)私はレジに向かった。

「女将さん、このパンを無料にして!今食べたいから」

「いいや、やっぱり今日は全部無料にしてあげる。今から珈琲を持っていくから先にカフェスペースにいってて。」

 やったぁ!今日はパン屋に来て正解だったな。これだけお礼をしてもらったのならば、ちゃんと親身になって相談を聞かないとな。さて、カフェスペースにいこうかな。

 てくてくと歩いてカフェスペースの方へ行き、そこら辺の適当な椅子を引いて座った。ああ、今日本当に付いている。私はうきうきしながら女将さんを待っていた。すると、すぐに女将さんは二杯の珈琲をもって出てきてくれた。そのまま、私の座っているテーブルに座った。

「それで、いったいどんなことが起こったんですか?」

 すると、女将さんはため息をつきながら呟いた。

「最近、私の息子がいじめられているらしいのよね…。」

 いじめって、結構重い話題が来たな。まあ、それだからこそこんなに暗い顔をしていたのか。ちょっと納得した。

「いじめ…ですか。いったいどのようなことでいじめられているのですか?」

「それがね…身体中に痣があったりするのよ。あきらかに、自分じゃあ傷つけないところにね。」

 自分じゃあ傷つけられないところに傷か…だったらいじめの可能性が高いよね。逆に、いじめじゃなかった方が怖い。一体どんなホラーなんだよ。というか、いじめられるのって相当辛いと思う。仲間外れだったり、物を壊されたり陰口を言われたり。私は本当にいじめられたことがないから本当の痛みはわからないけど、女将さんが心配な気持ちがすごく伝わってきた。

「そうなんですか…いじめてるこって一体どんなこなんですか?」

「それがね…」

 女将さんは少し周りをキョロキョロして、ほかに誰もいないことを確認してから私にこそっといった。

「お金持ちのところの息子さんらしいの。あまり、強く反撃に出ると絶対に痛い目にあうって言われてるらしくって…」

 あちゃー…そういうタイプの人間だったか。別に、お金持ちでも普通にいい人はいるけど(というかほぼ大半がそうだと思う。)たまに、人をいじめるタイプの人もいるその少数派のタイプだったか。というか、そんな人は物語のなかでしかいないのかと思ってたよ。物語にそういう人物がいると主人公を引き立たせるいい材料になるんだよね。っと、話は脱線してしまったがとにかく面倒くさい人が相手ということはわかった。

「それは、難しい話ですね…」

「そうよね。ごめんね翠ちゃん、こんな話しちゃって。」

「大丈夫ですよ。それで、一個聞きたいんですけど転校をすることってできないんですか?学校なんて星の数ほどあるんですから別にひとつの学校に固執することはないと思いますが…」

「確かに!その案はいいかもしれないわ。けど、この辺りにある学校っていったら今通っている学校しかなくてね…。」

 そっか、完全に忘れてたけどこの辺りは完全なる田舎なんだった。そんななんけんも学校があるような町じゃないことをすっかり忘れていた。

「そうなんですか…」

「じゃあ、もうこのはなしは終わり!こんな話をいきなりしちゃってごめんね。それじゃあ、私は仕事に戻るから、翠ちゃんはまだ休んでていいわ。じゃあね」

「お力になれなくて、すみませんでした。もし、私ができることがあったらお手伝いしますのでそのときは私にいってくださいね。」

「ふふ、ありがとう」

 そういって、女将さんは奥の方へいってしまった。とりあえず、今日はもう帰ろうかな。できれば、息子さんの力になりたいけれど、今の状況じゃあなにもすることはできないし。

 私は、少し残っていた珈琲を飲み干してパン屋をあとにしたのだった。

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